原発・核燃問題の動き(2021年4月)

今月、福島第一原発敷地内に溜まり続ける汚染水について、とうとう政府は2年後を目処に海洋放出する方針を決定しました。事故後、東京電力は放射性物質を含む大量の冷却水や地下水を敷地内のタンクに貯蔵してきましたが、それらを希釈して海に棄てるというのです。確かにこのまま貯蔵し続けると、莫大な費用がかかり、それらは最終的に私たち消費者の負担になります。政府と東京電力は十分に希釈して放出するので安全性に問題はないと説明しています。本当でしょうか。大規模な風評被害の発生は避けようもなく、それらへの対応や補償がどうなるかも分からないままの決定です。とても無責任な話です(「原発処理水の海洋放出決定 2年後めど、100倍以上に希釈」日本経済新聞2021/4/13)。

 福井県では、杉本達治知事が運転開始40年を超えるいわゆる老朽原発である美浜原発3号機・高浜原発1号機・2号機の再稼働に同意することを表明しました。福島第一原発事故後、原発の運転期間は特別な例外を除き、最長40年と定められたのですが、それが蔑ろにされようとしています。特別な例外がいとも簡単に認められようとしています。本当に大丈夫なのでしょうか。さらに、同県では関西電力の金品授受問題などが明らかになり、原子力行政の信頼性が大きく損なわれているとのことです。そんな中でも、知事は1機あたり25億円という交付金に目がくらんで、リスクの高い老朽原発の再稼働を容認することにしたようです(「40年超の原発再稼働へ 全国初、福井県知事が同意」日本経済新聞2021/4/28)。

 他方、政府は次期のエネルギー基本計画の策定に関わって、2030年度の電源構成について、再生可能エネルギーを30%、原子力を20%に引き上げるという目標を明らかにしました。再生可能エネルギーの割合は、現在18%程度で、これを大幅に引き上げようというのですから、歓迎するべきことです。しかし、原発は本当に必要なのでしょうか。それらの原発には老朽原発も含まれます。原発はCO2の排出量が少ないとは言え、大量の放射性物質を排出します。むしろ、本気で取り組むなら、再生可能エネルギーの割合はもっと引き上げることができるはずです。新しい時代は目の前に迫っています(「脱炭素電源、過半に引き上げ 2030年度へ政府方針」日本経済新聞社2021/4/24)。

2021.4.28 事務局)

さようなら原発・核燃「3.11」弘前集会に参加して(会員からの感想)

今回の集会の基調講演は北海道大学名誉教授の小野有五先生でした。高レベル放射能廃棄物を今地層処分してはいけない理由を8つの観点から説明されました。小野先生の話を初めて伺いましたが、話し方流暢で、語りかけるようで、大変わかりやすい講演で、88名集まった会場からの感想文でもその様な評価が多くみられました。高レベル放射能廃棄物の地層処分に関して、300mも掘り進めるというまだまだ未完成の地下埋設技術に賭けるのではなく、現状でもっとも信頼できる地上保管技術で200年持たせて、その間に新しい技術を開発するという案には説得力がありました。その200年の間にも、20年に一度行われる伊勢神宮の式年遷宮になぞらえて、技術を磨きつつ安全を確認する方式が、日本古来の方法にも通ずることに感心しました。地層処分は核廃棄物を無かったものにすることであり今のままでは行ってはならない、我々はこの負の遺産から決して目を逸らしてはいけないということだと思います。小野先生の講演に対しては多くの方々から質問・コメントがあり、この問題の関心の深さを示していたと思います。

(代表 宮永崇史)

 

今回の弘前集会では、小野有五先生の高レベル核廃棄物の地層処分問題の講演でした。講演をうかがってキャスクが50年位で老朽化のため取り換え必要があるということが分かりました。原発施設の配管なども漏れなどが発生していることも同じことだと思いました。だから原発の寿命は40~50年ということになります。今日本にある原発にはすでに寿命を超えているところが多いので、全部廃炉にして新しい原発は作らないことにすればよいと思います。

(運営委員 平山母志子)

原発・核燃問題の動き(2021年3月)

今月11日で、東日本大震災と福島第一原発事故の発生から10年が過ぎ、11年目を迎えました。当日は新型コロナの影響による制約の中、各地で追悼・復興祈念の式典が開催されました。政府主催の式典では、菅義偉首相が「被災地の復興は着実に進展している」と自慢げに述べたそうですが、福島県では避難指示が解除された地域でも住民は事故前の2割程度で、地域のコミュニティーが崩壊し、さまざまな困難に見舞われているとのことです。東日本大震災も福島第一原発事故も終わっていないのです。しかし、政府主催の式典は今回が最後になるとのことです(「東日本大震災発生から10年で追悼式 東京 国立劇場」NHK NEWS WEB 2021/3/11、「進まぬ帰還、住民は2割 切り札は住民の思いと遠く」朝日新聞2021/3/12)。

 年明け以来、新潟県の柏崎刈羽原発ではテロ対策の不備や安全対策工事をめぐる粗相などを繰り返してきまいたが、今月、とうとう原子力規制委員会はこの原発の状況を「最も深刻なレベル」とする評価を発表しました。一体、そもそも、東京電力には原発を管理・運用する能力があったのでしょうか。また、これまで、原子力規制委員会も東京電力の能力を審査し、再稼働に向けた準備を認めてきました。一体、原子力規制委員会には原発の安全性を審査する能力があるのでしょうか(「柏崎刈羽原発を「運転禁止」に 東電のずさんなテロ対策で規制委が是正命令へ」東京新聞2021/3/24、「東電、失態続き再稼働白紙 柏崎原発全基停止9年 原子力事業存続の危機」新潟日報2021/3/28)。

 今月は原発の再稼働をめぐる裁判所の判決・決定がいくつかありました。昨年1月に広島高裁が出した伊方原発3号機の運転差し止めの仮処分決定に関する異議審で、同じ広島高裁は仮処分の取消しを決定し、再稼働を認めました。日本原子力発電が生き残りをかけて再稼働を目指す東海第二原発をめぐる裁判では、水戸地裁は避難計画が未整備であるとして、運転差し止めを命じました。脱原発への道のりは一進一退という感じです(「伊方原発、10月末にも再稼働 高裁が四国電の異議認める」日本経済新聞2021/3/18、「東海第二原発、運転差し止め命じる 水戸地裁判決」朝日新聞2021/3/18)。

 福島第一原発事故の避難者訴訟の判決もありました。いわき市の住民約1400人が損害賠償26億円の支払いを求めた裁判で、福島地裁いわき支部は国と東京電力の責任を認め、両者に約2億円の支払いを命じました。東京電力の責任だけでなく、国の責任も認められたのは、一審では8件目です。しかし、賠償額は1人あたり約14万円で、あまりにもわずかです(「原発事故 いわき市住民訴訟で国の責任認め賠償命じる 福島地裁」NHK NEWS WEB 2021/3/26)。

 そうした中で、青森県では、東京電力が東通村に地域貢献のための「東通みらい共創協議会」を設置するために30億円を拠出することになったそうです。東京電力は東通村に性懲りもなく新たな原発の建設を画策しています。そのための地ならしというわけです。しかし、福島第一原発事故の処理や賠償もままならない東京電力にそんな余裕があるのでしょうか(「東電、東通村に30億円拠出 協議会設立し地域貢献策」河北新報2021/3/20)。

2021.3.31 事務局)

原発・核燃問題の動き(2021年2月)

福島第一原発事故から10年の節目を目の前にして、廃炉作業や汚染水処理の問題、経済の社会の復興状況など、福島第一原発や福島県の現状について多くのニュースが見られます。とりわけ多くの避難者を出した避難区域の現状に注意するべきでしょう。

 福島第一原発事故に関わって、未だに約4万人の方が避難生活を送っているとのことですが、避難指示が解除された地域でも、帰還者は住民の3割程度であるとのことです。地域の復興の見通しは厳しいと言わざるを得ません。実際、世論調査でも、福島県民の約7割が福島第一原発の廃炉や避難指示解除地域への移住政策に「期待できない」と回答しているとのことです。一体、国や東京電力は何をやっているのでしょうか。他方、10年間の震災関連自殺者は240人にのぼり、そのうち約半数の118人が福島県民であるとのことです。このことは、福島県民の10年間がいかに厳しいものだったのかを表しているのではないでしょうか(「居住3割、帰還頭打ち 避難解除区域、存続に危機感原発事故から10年・福島」時事通信2021/2/22、「廃炉も移住政策も「期待できない」7割超 福島世論調査」朝日新聞2021/2/24、「震災関連自殺、後絶たず 10年で240人、福島が半数 専門家「絆重視の復興を」」時事通信2021/2/24)。

 今月も避難者訴訟の判決がありました。福島第一原発事故を受けて千葉県内に避難していた住民らが国と東京電力に損害賠償を求めた裁判の控訴審判決で、東京高裁は国と東京電力の両者の責任を認め、損害賠償の支払いを命じました。避難者訴訟の控訴審判決は全国で5件目で、そのうち、国の責任が問われた裁判は3件目、国の責任が認められたのは2件目です。福島第一原発事故の避難者の救済への歩みはまだまだ長く続きそうです。国や東京電力にはもっときちんと避難者と向き合ってもらいたいものです(「原発避難訴訟、国の責任認める 高裁で2件目」朝日新聞2021/2/19)。

 全国の状況に目を移すと、運転開始から40年を超える「老朽原発」の再稼働に向けた動きが見られました。福井県の高浜原発1号機と2号機について、高浜町の野瀬豊町長が再稼働に同意しました。続いて、同じく福井県の美浜原発3号機について、美浜町の戸嶋秀樹町長が再稼働に同意しました。福島第一原発事故の処理も総括もできていないない中で、このような動きが進めようというのは、無関心または無責任のなせる業なのでしょうか(「高浜原発の再稼働、地元町長が同意 老朽原発では全国初」朝日新聞2021/2/1、「美浜3号機、地元町長が再稼働同意 老朽原発では2例目」朝日新聞2021/2/15)。

 青森県では、日本原燃の増田尚宏社長が定例記者会見で、昨年、25回目の工期延長を発表し、2022年上期完成としていた六ヶ所村の再処理工場について、完成を確信している、さらなる延期はないと仰ったとのことです。しかし、私たちはそんなセリフを20回以上聞いてきました。仮に完成しても、すでに過剰なプルトニウムを抱え、国際問題化しているときに、本当に再処理を行うことができるのでしょうか(「再処理工場「22年度上期完工を確信」 原燃・増田尚宏社長」河北新報2021/2/15、「プルトニウム減らせる? 原発12基でプルサーマル発電、実現見通せず」東京新聞2021/2/27)。

2021.2.27 事務局

会員からのメッセージ:核燃料と決別し、明るい未来を!

原発で使い終わった核燃料を再利用して、新たな核燃料に加工するMOX燃料工場について、原子力規制委員会は昨年12月9日、国の新規制基準を満たすと正式に判断しました。核燃料を再利用する国の「核燃料サイクル政策」を担う要の2施設がともに安全審査を通過したことになりますが、それでも政策そのものの先行きは見えてきません。

 核燃サイクルを進めるには、まず六ケ所再処理工場で使用済み核燃料から再利用できるプルトニウムを取り出します。次に同じ敷地で建設中のMOX燃料工場でこのプルトニウムなどを使ってモックス燃料と呼ばれる核燃料を生産します。再処理工場に加え、MOX燃料工場も国の安全上の規制はクリアしたものの、核燃サイクル自体への疑念は消えません。

 使用済みMOX燃料には、発電による「燃えかす」が混じっています。そこに残るプルトニウムが既存の使用済み核燃料より数倍多く、核分裂反応が連続する「臨界」が起きやすくなります。さらに、強い放射線を出す放射性物質も、既存の使用済み核燃料より多く含まれるので、より厳しい管理が必要となります。このとても危険な工場をこのまま作ってしまってよいのでしょうか。

 自分たちの命を守るためにも、もっともっと多くの反対の声をあげるべきではないでしょうか。そして、原発のない明るい未来を私たちの手でつかみとりましょう。

(2021.2.3 運営委員 工藤由希子

原発・核燃問題の動き(2021年1月)

今年は福島第一原発事故から10年の大事な区切りの年です。廃炉作業や汚染水処理はますます混迷を極め、何よりも依然として4万人以上の住民が避難生活を強いられています。福島第一原発事故の教訓を今一度学び直しながら、福島県に思いを巡らす年になるでしょう。

 今月も福島第一原発事故に関わる避難者訴訟の判決がありました。群馬県内に避難した住民が国と東京電力に損害賠償を求めた裁判の控訴審判決で、東京高裁は前橋地裁の一審判決よりも賠償額を上積みしましたが、国の責任は認めず、東京電力のみに賠償金の支払いを認めました。避難者訴訟の控訴審判決は4件目で、昨年9月に仙台高裁は国の責任を認めましたが、今回、東京高裁は認めませんでした。これまで原子力政策を推進し、原子力施設の審査を行ってきたことの責任はどこに行ったのでしょうか(「原発事故、東京高裁は国の責任否定 東電だけに賠償命令」朝日新聞2021/1/21)。

 今月、とくに話題をさらった原子力施設は、新潟県の柏崎刈羽原発でしょう。今月上旬、東京電力は柏崎刈羽原発7号機の再稼働に向けた安全対策工事が終了したと発表しましたが、その後、実際はまだ終了していなかったとして陳謝しました。また、同じ柏崎刈羽原発で、昨年9月に東京電力の社員が他人のIDを利用して施設に入ったというニュースもありました。杜撰な安全管理の実態が明らかになり、非難の声が日に日に高まっています(「東京電力 柏崎刈羽原発7号機 安全対策工事が終了」NHK NEWS WEB 2021/1/13、「東電柏崎刈羽原発 安全対策工事 終了発表も実際は終わらず陳謝」NHK NEWS WEB 2021/1/27、「東電社員、他人のIDカードで原発内建屋に 柏崎刈羽」朝日新聞2021/1/23)。

 福島第一原発事故からの10年間で何が変わったのでしょうか。朝日新聞によると、全国の原子力施設が立地する自治体が徴収する核燃料税の総額が2.3倍に増えたとのことです。原発の再稼働が滞る中、多くの自治体が核燃料税の税率を上げたり、課税できる範囲を広げたりして、税収を増やしてきました。こうして脱原発どころか、ますます原発依存を深めてきました。ちなみに、核燃料税の累計額の第1位はダントツで青森県、第2位は福井県、第3位は福島県です。全国の立地自治体から見ると、青森県はある意味羨望の的なのです(「原発立地自治体の核燃料税、震災後2.3倍 料金影響も」朝日新聞2021/1/11)。

2021.1.29 事務局)