金曜日行動から〜岩渕議員の講演を受けて〜

 

核燃・だまっちゃおられん津軽の会は、9月24日(日)、参議院議員の岩渕友さんをお呼びして、第39回市民講座を開きました。

講演のタイトルは、「STOP!海洋放出―国民の声をきけ―」というものでした。1か月前の8月24日から始まった海洋放出をどうやって止めるかをみんなで考えるための講演でした。

現在、廃炉作業中の東京電力福島第一原発では、熱を発し続けている核燃料を冷やすため、崩壊した原子炉建屋内に間日数百万トンの水を注入しています。この水が、核燃料や原子炉構造物が固まったデブリに含まれる放射性物質に触れ、高濃度に汚染された水となります。また、山側から海側に流れている地下水が原子炉建屋に流れ込んでいます。この地下水も建屋の地下の放射性物質に触れ、汚染水になります。

1日に発生する汚染水は94~150トンにも上ります。これを敷地内のタンクに溜めていて、総量は130万トン(2022年)を超えています。廃炉には30~40年かかるといわれ、その間にも汚染水は発生するため、1日100トンと仮定すると、30年で約100万トン増えます。

「汚染水の発生そのものを抜本的に減らしていく対策こそもっと真剣に取り組まなければならない」とも岩渕さんは訴えました。海洋放出しても、毎日冷却する必要があるので、汚染水は減りません。汚染水は、増え続けているのです。

政府や東電は、海洋放出以外にあるいくつかの方法は考えずに海洋放出しています。別の方法を考えるべきなのです。

海洋放出以外の方法を専門家は提案しています。

地質学の専門家らは代替えの対策として、 集水井(しゅうすいせい)と組み合わせ、原発建屋周囲を、地下35~50メートルまでコンクリートの遮水壁で囲い、地下水の流れを防ぐ「広域遮水壁」建設を提案しています。

 さらに処理水の処分方法も、「モルタル固化」や、「大型タンクを増設し、放射能の低下や新たな処理技術の開発まで保管継続」を求める提案が出されています。

海洋放出ありきで、他の有効な処理方法を考えないやり方ではなく、今一度これらの代替え案を検討するべきではないでしょうか。

政府と東電は「汚染水を貯めておくスペースが足りない」ことを理由に海洋放出を正当化していますが、福島第一原発の敷地内にも近隣地域にも、汚染水を長期的に保管するための十分なスペースがあります。

政府と東電は、廃炉にはデブリ(溶け落ちた核燃料)を取り出すことが必須で、その作業に必要な施設を設けるスペースが必要だから、敷地内の汚染水タンクを撤去しなければならない、としています。でも、デブリの取り出しは暗礁に乗り上げています。いつになるか全く見通せないデブリの取り出しが進んだ時の保管場所を確保するためといて、処理汚染水のタンクを取り除くために海洋放出とするのです。海洋放出以外の方法を考えずに、貯蔵タンクを立てる土地はあるが、東電は廃炉処理に使うためにとって置くと言っています。

廃炉作業は困難を極めており、これまでに回収した量は耳かきほどの量なのです。

政府は、なぜ海洋放出にこだわるのでしょう。六ケ所村の核燃料サイクル施設から出る高濃度の処理水を海洋放出するために、是が非でも福島の汚染水を海洋放出したがっているのです。

 海洋放出の問題点は、何でしょうか?

 2015年、事故炉内で核燃料に直接触れて生じた汚染水を処理したALPS処理水について、政府と東電は「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と約束しました。この重い約束を反故にし、海洋放出を強行することは断じて許されません。岸田首相は全漁連会長との会談で「全責任を持って対応する」と説明しましたが、上記の約束も反故にしたのですから、この首相発言を私たちは、にわかには信じられないのです。

 政府は、IAEA (国際原子力機関)が検査して安全だと言っているから大丈夫と言っています。IAEAは原発推進機関だからトリチウム汚染水が危険だとは言うはずはないのです。海洋放出される処理水の安全が強調されてはいますが、この処理水に含まれる放射線送料さえ明らかにされていないのですから不信感は募るばかりです。そして、この海洋放出が順調に進んでも30年かかる「大事業」であることを考慮すれば、確実に今後の政府が責任をとるためには、さらなる具体的な施策が必要だと考えます。

 地元の福島県と全国の漁業協同組合連合会は「海洋放出に反対であることは、いささかも変わるものではない」と繰り返し表明しています。原発事故後、地元の水産業者は海産物の汚染状況を調べながら、事業再建と復興を進めてきましたが、沿岸漁業の漁獲量も原発事故前の2割です。ALPS処理水の海洋放出強行は、これまで地元漁業者が積み重ねてきた努力を台無しにするものです。

海洋放出の影響は、福島県内にとどまらず、青森県にも及んでいます。

中国向けの食品輸出で打撃が表面化し始め、県産ホタテも輸出先の85%が中国で取引価格が下がっている現状から、「近隣諸国と話し合い、理解を得ることは政府の役割だ」とし「中国を含めて近隣諸国と話し合い、損害賠償を含めてきちんと対応することが今、政府と東京電力の責任で行うこと」と岩渕さんは強調しています。

 (2023.10.27 健生労組 

処理水の海洋放棄に反対する!

 

 福島第一原発事故による汚染水の海洋放出が漁業関係者の反対を押し切って強行されました。国と東京電力が福島漁連と交わした約束を破って強行した暴挙です。「関係者の理解なしに、いかなる処分もおこなわない」。理解を得るまで東京電力は、「アルプスで処理した水は発電所敷地内のタンクに貯留いたします」との文書を交わしています。これが完全に破られています。 

岸田首相が外国に行って「理解を得られた」といっても、肝心の漁業関係者は一様に「放出には反対」と表明しています。

関係者の理解が得られないだけでなく、海洋放出がいつ終わるかも明らかではありません。マスコミは「処理水放出開始から完了まで30年」と報じていますが、いまも原子炉建屋には地下水が流れ込み、1日あたり約90トン、年間で3万トン以上の新たな汚染水が発生しています。いま貯蔵されている134万立法メートルの汚染水の海洋放出が完了するころには、また同じくらいの汚染水が溜まっていることになります。

 核燃料が溶け出したデブリに接触した汚染水は、アルプスで処理しても、放射性物質のトリチウムは除去できません。「規制基準以下」とはいえセシウム、ストロンチウムなどトリチウム以外の放射性物質も含まれていることを、政府も認めています。

  汚染水を基準値以下に薄めて流すから大丈夫というものでもありません。放出する放射性物質の総量も大問題です。今後放出する放射性物質の全体量がどのくらいなのか、いつまで放出するのか。国会で質問されても東京電力の小早川社長は、放出される放射性物質の総量は答えませんでした。

 いまのところ、溶けた燃料=デブリを取り出す見通しは立っていません。福島第一原発の建屋内への地下水の流入を止めないかぎり汚染水は増え続けることになります。「凍土壁」の対策も十分な効果をあげていないにもかかわらず、政府は汚染水の増加を止めるための有効な手立てを取っていません。

地下水がデブリに触れるのを防ぐ高域遮水壁の設置など、汚染水の増加をとめるための手立てを真剣に検討すべきです。専門家から「大型タンク」に貯める案や、モルタルで固める処分案など、放射性物質の海洋放出を回避する手立てが提案されていますが、検討された様子もありません。問題を解決するための真剣な検討と対策を行うべきです。

 中国の頑なな輸入禁止措置がいつまでも続くことはないでしょう。中国の態度が軟化して、これで全世界の理解を得たとばかり、汚染水海洋放出の免罪符にしてはなりません。

(2023.9.22 農民組合)

第16回総会・第38回市民講座の感想

今回の基調講演は、核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団事務局長の山田清彦氏より「止めよう再処理!核のゴミどうする?」をテーマにお話ししていただきました。

まず、六ケ所再処理工場が、26回目の完成延期となった理由について、昨年12月に提出した設工認の書類約6万ページのうち約3100ページに不備があったとのお話しに、核燃サイクル政策はすでに破綻していると改めて感じました。1986年に起きたチェルノブイリ原発事故を受け、農業者などが反対運動を起こし、かつては県民の約8割が核燃反対だったそうですが、今年の青森県知事選を見ると、核燃推進派の宮下氏が圧勝するなど県民の意識が変わってきていると感じます。ロシアによるウクライナ侵攻を見ていると、原子力施設が攻撃されています。核燃サイクル施設への核テロ事件がいつ起きてもおかしくありませんが、戦争になった場合の安全対策は、原子力施設に関しては全く用意していないとのことでした。高レベルで事故が起きれば日本は壊滅します。そんな危険なものが青森県にあるということを私たちは決して忘れてはいけません。この現実を重く受け止め、一人ひとりが真剣に考え行動に移すべきだと私は思います。

 (2023.8.3 運営委員 工藤 由希子)

原発・核燃問題の動き(2023年6月)

 福島第一原発の敷地内にはトリチウム等の放射性物質が含まれる汚染水(処理水)が大量に貯蔵されているますが、この汚染水の海洋放出の準備が大詰めを迎えています。今月には放出用の海底トンネルが完成し、試験運転が始まったとのことです。汚染水は国の基準を十分に下回るように希釈してから海洋に放出するとのことですが、本当に大丈夫でしょうか。福島県では漁業や農業の関係者を中心に、多くの人々が反対の声を上げています。多くの人々が風評被害が生じることを予想しています。東京電力は福島県の人々の切実な願いを無視して海洋放出を強行するつもりのようです(「福島第一原発の処理水放出計画、試運転を開始 真水使って設備の確認」朝日新聞2023/6/13、「福島第1原発事故 処理水海洋放出の再検討求める 県内11団体、19日に署名提出」河北新報2023/6/17、「原発処理水の海洋放出で「風評起きる」は87% 懸念払拭されず 福島県民世論調査」福島民報2023/6/19)。

 また、福井県内の原発に貯蔵されている使用済み核燃料の扱いが問題になっています。関西電力はこれらの使用済み核燃料を県外に搬出すると約束してきたのですが、その一部をフランスに搬出することが決まり、森望社長は「約束を果たした」と述べているとのことです。しかし、今回搬出が決まったのは福井県内の使用済み核燃料の6%にすぎず、今後の見通しも立っていないことから、福井県の人々は反発しています。福井県内では関西電力の美浜原発・高浜原発・大飯原発の再稼働が進んでいますが、使用済み核燃料を搬出できないなら、これらの原発の運転もできなくなります(「関西電力 福井県内に貯蔵の「使用済み核燃料」をフランスへ 森社長が杉本知事に報告」MBS NEWS 2023/6/13、「【解説】保管の限界近づく「使用済み核燃料」 関西電力が“ウルトラC” フランスへの一部搬出を表明 「福井県外へ搬出」の約束は果たされた? 遠い根本的解決」MBS NEWS 2023/6/17)。

 今月末、使用済核燃料再処理機構は青森県六ヶ所村で建設中の再処理工場に関わって、再処理事業の総事業費がさらに増額する見込みであることを発表しました。総事業費は14兆7000億円、うち再処理工場の建設費は3兆2100億円です。建設費は1993年の着工当初7600億円とされていましたが、次から次へと増額を繰り返し、とうとう3兆円を超えました。これらにMOX燃料加工事業の総事業費2兆4070億円を加えると、核燃料サイクル事業全体の総事業費は17兆1070億円に達します。品川−名古屋間のリニアの建設費が1兆5000億円とされていますから、いかに巨額の資金(元をたどれば私たちが支払っている電気料金)が投入されているのかが分かります。この事業にはそれだけのメリットがあるのでしょうか(「青森・六ヶ所の再処理工場、事業費2600億円増 総額14兆7000億円に」河北新報2023/6/27)。

(2023.6.28 事務局)

原発・核燃問題の動き(2023年5月)

  今月末、岸田文雄政権の「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を実現するための「GX脱炭素電源法案」が自由民主党・公明党・日本維新の会・国民民主党他の賛成により参議院で可決され、原子力基本法・電気事業法・原子炉等規制法・再処理法・再生可能エネルギー特別措置法が改正(改悪)されました。これにより、脱炭素社会の実現のために原発を活用することが「国の責務」となり、原発の運転期間を「原則40年・最長60年」とするルールが事実上撤廃されるなど、原発推進のための政策が実施されることになります。福島第一原発事故の処理の目処さえ立っていない状況で、こんなに簡単に事故の教訓を忘れて、原発推進の国に戻ってしまって良いのでしょうか(「原発の運転期間が60年超へ 改正法が成立、福島事故後のルール変更」朝日新聞2023/5/31)。

 また、宮城県の東北電力女川原発の再稼働をめぐる裁判の判決がありました。住民側は「避難計画に実効性がない」として再稼働の差し止めを請求しましたが、仙台地裁は「重大事故が発生する具体的危険の立証がない」として住民側の請求を棄却しました。この判決には本当に驚きました。事故の発生の立証がないなら、避難計画は必要がないとでもいうのでしょうか。福島第一原発事故は「想定外の事故」とされています。当然、事故の発生は立証されていませんでした。その結果、福島県の多くの人々は大きな苦難に見舞われることになりました。こういうことを繰り返さないために、万が一の事故に備えて、十分な避難計画を策定する必要があるではないでしょうか(「女川原発の再稼働差し止め請求棄却 仙台地裁 避難計画の実効性判断せず」河北新報2023/5/24)。

 他方、福島県飯舘村の帰還困難区域のうち、長泥行政区の特定復興再生拠点区域と区域外の長泥曲田公園の避難指示が解除されました。これで福島県内の復興拠点の避難指示がすべて解除され、帰還困難区域の復興が大きく前進することになります。早速、長泥行政区では、大規模な試験用水田で実証実験が始まったとのことです。しかし、復興拠点の面積は帰還困難区域全体の数パーセントにすぎず、復興拠点でも住民の帰還や復興が順調に進むかどうかは分かりません。むしろ、課題山積というべき状況です。福島県の復興はまだまだこれからなのです(「福島県飯舘村の長泥行政区避難解除 復興拠点、福島県内全て完了 曲田公園も」福島民報2023/5/2、「試験用水田27アールにコメの苗を植え付け 福島県飯舘村長泥行政区」福島民報2023/5/23)。

(2023.5.31 事務局)

 

原発・核燃問題の動き(2023年4月)

  今月は青森県内の原子力施設に関するニュースが目につきました。まず、六ヶ所村で建設中の再処理工場について、日本原燃は昨年9月に26回目の延期を発し、2024年上期完成を目指して審査を受けていましたが、この審査書類6万ページのうち、約3100ページに誤りがあることが判明し、原子力規制委員会からお叱りを受けたとのことです。また、再処理工場では今年2月に監視対象の部屋の照明が切れたたため、IAEAの監視業務が中断したという不祥事があり、日本原燃は報告書を提出していましたが、原子力規制委員会からこの報告書が不十分であるとのお叱りを併せて受けたとのことです。日本原燃の不祥事は途絶える気配がありません。いつまで続くのでしょうか。これで本気で再処理工場を稼働させようというのでしょうか(「使用済み核燃料再処理工場の審査書類 3100ページにわたり不備」NHK NEWS WEB 2023/4/14)。

 また、大間町で建設中の大間原発について、電源開発はやはり昨年9月に8回目の延期を発表し、2030年操業を目指して新規制基準に基づく安全審査を受けていましたが、その際、断層の深さを3kmとするべきところを3mと誤入力して計算していたことが判明し、原子力規制庁から厳しいお叱りを受けたとのことです。信じられないくらい初歩的なミスですが、結果は重大です。大間原発はウランとプルトニウムの混合燃料(MOX燃料)を100%装填できる世界初の新型原発で、プルサーマル推進に不可欠であるとのことですが、通常の原発よりも高コストで高リスクだと言われています。こんな会社がそんな新型原発を稼働させるのかと思うと背筋が凍る思いです(「特報!電源開発、大間原発の地震動計算で断層の深さを誤入力 原子力規制庁「極めて重大な事案」」週刊金曜日2023/4/9)。

 先月末から、岸田文雄政権の「GX(グリーントラスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を実施するための「束ね法案」の審議が衆議院で始まっていましたが、今月末には自由民主党・公明党・日本維新の会・国民民主党他の賛成により可決されました。法案は参議院に送られました。この法案に反対する研究者たちは「気候変動対策とは名ばかりで、実態は原子力産業救済法案だ」とする緊急アピールを発表しました。反対の輪は拡がっていますが、政府は押し切るつもりでしょう。福島第一原発の反省を踏まえて策定された重要方針はどうなってしまうのでしょうか(「国会審議の原発活用法案は「原子力救済だ」研究者らがそう憤るわけ」朝日新聞2023/4/18、「原発政策の大転換なのに…拙速な審議、再生エネなど5本の「束ね法案」が衆院で可決」2023/4/28)。

(2023.4.28 事務局)

続く、六ヶ所核燃施設でのミス!

 331日に以下のような新聞記事が載りました。

”使用済み核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)を巡り、日本原燃が目指す2024年度上期の「できるだけ早期」とする完工時期にとどまらず、事業自体にも黄信号がともり始めた。原子力規制委員会は、安全対策工事の詳細設計の認可(設工認)に関する審査でミスや不備を繰り返すばかりの原燃に業を煮やし、ついに「審査打ち切り」というカードをちらつかせた。

まず、再処理工場の稼働に向けた審査で、日本原燃が昨年末に原子力規制委員会に提出した6万ページの申請書のうち3100ページ(およそ5%)に誤りのあることがわかり、規制委員会は原燃の社長らを呼び再提出を求めたということです。また、核燃料再処理工場で建屋の照明が消え、国際原子力機関(IAEA)が一時的に設置カメラで監視できなくなったということです。この問題を巡り、原子力規制委員会は、原燃による検証は不十分と判断し、調査報告書の再提出を求めることを決めたようです。最後に、ウラン濃縮工場建屋内でも1000リットルの水道水が漏れる事故があったということです。周辺環境への放射能等の影響がないということですが、これら一連のミスを考える時、現場の士気は相当下がっているのではないかと心配になります。危険な放射性物質を大量に扱う会社であることの自覚を持っていただきたいし、組織構造の改革にも取り組んでいただきたいと思います。

(2023.4.27 宮永崇史)

金曜日行動から 〜GX法案は許せない〜

福島第1原発の過酷事故発生から12年が過ぎました。「福島事故を2度と繰り返してはいけない」ということは、我々の共通認識であったはずです。

ところが、いま福島第1原発事故の教訓を忘れ、原発回帰・永続化への大転換を狙う法案が国会で審議されています。「グリーン・トランスフォーメーション(GX)脱炭素電源法案」とよばれる法案です。

「エネルギー危機」を口実に、福島原発事故以降の原発政策は大転換されようとしています。昨年の参議院選挙で与党は、原発の「依存度低減」を主張していました。しかし、2月に閣議決定された「グリーン・トランスフォーメーション実現に向けた基本方針」では「最大限活用する」に変わりました。さらに「新規増設は想定せず」が「次世代炉に建て替え」となりました。

原発の安全確保の原理である「原発の規制と推進の分離」は福島事故からの教訓でした。ところが、今回の法案は、運転期間のルールを原子力規制委員会から推進側である経産省に移し、規制委員会の審査などによる原発停止期間を運転期間として数えずに60年以上の運転を可能にしようとするものです。「原発の運転期間の上限を原則40年、最大60年とする」とうい規定が削除されようとしています。

60年超の運転を可能にすることについては、原子力規制委員会でも意見が割れました。ある委員は「科学的、技術的な新知見に基づくものではないから、安全側への改変とも言えない。審査を厳格に行えば行うほど、将来より老朽化した炉を運転することになる」と反対意見を述べました。安全性ではなく、脱炭素や電力需給など政策的な観点から運転期間を判断しようとしています。

2014年、福井の関西電力大飯原発の運転差し止めの福井地裁判決において、原発のコスト論、脱炭素論について、次のような判断を示しています。原発がコストの低減につながるとする主張に対しては、「極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と、電気代の高い低いの問題等とを並べて論じるような議論に加わったり、その議論の当否を判断すること自体、法的に許されない。」CO₂削減に資するもので、環境面ですぐれているという主張に対して、「福島原発事故は我が国始まって以来最大の公害・環境汚染であることに照らすと、環境問題を原発の運転継続の根拠にすることは、甚だしい筋違いである。」

ドイツは福島事故の教訓を踏まえ、「2022年までの脱原発」を決定し、今年4月15日に最後の3基が稼働停止し、脱原発の目標は達成されました。現在ドイツの発電量に占める再生エネの比率は40%台になっています。同じことは、日本でも可能なはずです。

被災地の実情を無視し、事故の原因をねじ曲げて原発推進に復帰する道は、福島事故を繰り返す道です。もう一度12年前の原点に立ち返って、考えてみましょう。

(2023.4.21 弘大職組 永瀬範明)

原発・核燃問題の動き(2023年3月:その2)

 ところで、福島第一原発事故の賠償費用は東京電力だけでなく、全国の電力会社が共同で負担することになっています。福島第一原発事故後に設立された新電力も送電線使用料を上乗せして支払うことによって、この費用を負担しています。今月、この上乗せが違法であるとして、福岡市の新電力が国に取消しを求めた行政訴訟の判決が福岡地裁で言い渡されました。新電力会社の請求は退けられ。上乗せされた使用料を支払い続けなけれなならないことになりました。しかし、どうして福島第一原発事故に何の責任も関連もない事業者が電力会社というだけで賠償費用を負担しなければならないのでしょうか。東京電力を始め、全力で原発を推進してきた国と電力会社が責任をもって負担するべきではないでしょうか(「送電線使用料への原発賠償上乗せ、原告の取り消し請求棄却 福岡地裁」朝日新聞2023/3/22)。

 また、福島県では除染事業に伴って、大量の除染土・除染廃棄物が発生していますが、青森県風間浦村が福島県の除染土の受け入れを検討しているというニュースがありました。青森県が福島県を応援するという素晴らしいニュースなのでしょうか。しかし、除染土の受け入れによって交付される助成金が目当てなのは明々白々です。除染土の処分は重要な課題ですが、目先のお金で将来の安全を売るようなことには十分に慎重であってほしいと思います(「除染土の再利用、青森・風間浦村が実証事業の受け入れ検討 時期未定」朝日新聞2023/3/8)。

 最後に、今月末に岸田文雄政権の「GX(グリーントラスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を実施するための「束ね法案」の審議が衆議院で始まりました。福島第一原発事故の反省を踏まえて定められた原発の運転期間を「原則40年・最長60年」とするルールを骨抜きにする法案です。事故から12年過ぎたから、そのようなルールは不要になったとでもいうのでしょうか。こちらの動きにも注目です(「原発の運転延長法案、衆議院で審議入り「60年超」可能」日本経済新聞2023/3/30)。

(2023.3.30 事務局)

原発・核燃問題の動き(2023年3月:その1)

 2011年3月11日の福島第一原発事故の発生から12年が過ぎました。福島第一原発の周辺にはいまだに避難指示が解除されていない地域が広がり、いまだに約3万人の住民が避難生活を続けています。すでに避難指示が解除された地域でも、住民の人口は事故前と比べて約5万人減少しています。廃炉の作業が困難を極めていることや、漁業者の反対を押し切って汚染水の海洋投棄の準備が進められていることなどが報道されています。そうした中、今月31日に福島県浪江町の、来月1日には福島県富岡町の特定復興再生拠点区域の避難指示が各々解除されることになりました。福島県は少しずつ復興に向けて動いています。しかし、本当に少しずつです。今回避難指示が解除される区域も合わせて1000ヘクタールほどで、帰還する住民も数十人程度と見られています。復興への道のりはまだまだ続きます(「福島・浪江の復興拠点 3月31日に避難指示解除」河北新報2023/3/2、「4月1日午前9時に避難指示解除 福島・富岡の復興拠点」河北新報2023/3/11)。

 今月は福島第一原発事故に関わる避難者訴訟の判決がいくつか出ました。福島県いわき市の住民1300人が国と東京電力に慰謝料を支払いを求めた訴訟の控訴審判決が仙台高裁で、岡山県に避難した住民105人が国と東京電力に損害賠償を求めた訴訟の判決が岡山地裁で、福島県南相馬市小高区の住民587人と鹿島区の住民313人が国と東京電力に損害賠償を求めた2つの訴訟の判決が福島地裁で各々言い渡されました。いずれの判決も東京電力に慰謝料または損害賠償の支払いを命じるものでしたが、国の責任は認められず、東京電力の支払額もごくわずかです。国も東京電力も全力で原発を推進してきておきながら、事故が起こったら全力で自らの責任を否定するのですね(「いわき原発避難者訴訟 東電に賠償命令、国の責任は認めず 仙台高裁判決」河北新報20023/3/10、「原発事故で福島から岡山に避難 国の責任認めず 岡山地裁」NHK NEWS WEB 2023/3/14、「原告「納得できない」福島地裁、国の責任否定 南相馬の原発2訴訟」朝日新聞2023/3/15)。

(2023.3.30 事務局)

岸田首相の鈍感力 〜さようなら原発・核燃「3.11」弘前集会 大島堅一氏基調講演の感想〜

2023年のさようなら原発・核燃「3.11」弘前集会は3月4日に基調講演者として長い間の念願であった龍谷大学教授の大島堅一先生を弘前にお招きして行われました。大島先生は環境経済学の専門家で、原発のコストや再生可能エネルギーをめぐる問題の第一人者です。講演を受けての印象をまとめてみたいと思います。

今、値上がり続ける電気料金と原発のコストについての話題は興味深いものでした。原発は維持するだけで莫大なコストがかかります。確かに、原発を再稼働すれば停止している今よりは電気料金が安くなるようですが、逆に全ての原発をやめてしまった方が、維持コストの分、再稼働するより電気料金は安くなるというのです。後世に負の遺産を残すよりいっそやめてしまった方がいいのは自明ですね。さらに、原子力事業は衰退産業になりつつあることもはっきりしているようです。岸田政権の原子力回帰は原子力産業の延命が目的であることは明らかですが、すでに日本でも原子力事業の撤退が相次ぎ、海外の動向を見てもこれ以上原子力にコストをかけようとする事業者はほとんどありません。再生可能エネルギー100%の電力で作られた製品でなければもはや国際的には流通できないので(RE100)、ようやく日本の企業も再エネ電源に方向を転換したのでしょう。国民も、財界も、もはや原子力には頼りたくないのに、政府だけがそれを維持したいと考えているようです。誰が猫の首に鈴をかけるかという状況ですね。近年、大島堅一先生が政府の審議会のメンバーになり、NHK「クローズアップ現代」に出演するようになってきたのも、外からの圧力で原子力を諦めさせようとする現れではないでしょうか。100年後の人口は今の半分になると予想されるのに、これ以上核廃棄物を増やし、後世に負担を強いるのは倫理的にも許されないことです。大島先生によると岸田首相の原子力回帰は首相の鈍感力の賜物であるとのことです。政権支持率がいかに下がろうとも気にしない鈍感力、これに翻弄されないよう、今市民の力が試されてといる言えるでしょう。

2023.3.10. 宮永崇史)

電気料大幅値上げ!「生きていけない」〜さようなら原発・核燃「3.11」弘前集会リレートークより〜

新婦人新聞には全国からの怒りの声が届いていますので紹介します。

   札幌白石支部より 北海道電力が経産省へ34.87%もの電力料金を値上げしたことが報じられ、班総会で急遽取り上げました。参加した9人のうち8人が年金受給者、1人が子育て中の労働者です。「私は言いたい!」欄には、「暖房はこまめに止め、室内照明もなるべくつけずに暮らしているのに、北電の役員報酬は3割以上の増額。値上げなんてとんでもない」(78歳)「子育てや医療の節約はこれ以上は無理。夫婦喧嘩が絶えない。電気料金値上げなんてダメ」(50代)などの切実な声が次々に上がっています。

    次に紹介するのは山形のAYさん(47歳)。1月の電気代は98,167円、2月の請求が恐ろしい。オール電化にして、夫、子供2人、義母の5人暮らし。少しでも節電をと義母は昼間暖房をつけず、厚着して我慢し、蓄熱式暖房器をやめ、エアコンの設定を下げるなどで、電気使用量は昨年同様3174キロワットから2582キロワットに下がったにもかかわらず料金は1.3倍です。4月から3割も値上げされたら、住宅ローンや私立高校の学費などあるのにどうしようかと夫と途方に暮れています。

    もう一つ紹介します。山梨のRMさん(69歳) 電気代が3ヶ月で2.3倍。昨年12月は29,670円、今年1月は47,421円、2月の予定額が67,123円、怒りはマックスです。夫と二人暮らしで、「電気は安全」とオール電化にしたものの6万円を超える負担に驚愕。生きていくのに必要なものの値上げはやめてほしい。

    これらは大手電力会社7社が一斉に家庭向けの電力料金を3〜4割という大幅な値上げを国に申請したからです。燃料費高騰で昨年秋に25~35%あがったばかりです。経産省の審議会で認められれば4月から順次実施されます。値上げ申請をした電力会社は、東北、北陸、中国、四国、沖縄、北海道、東京です。

    実質賃金も年金も減らされ、とりわけ女性の貧困は深刻です。政府は負担緩和策として家庭電気料金の約2割を1月使用分から支援すると言っていますが、春以降は値上げが支援を上回り、一時しのぎにもなりません。しかも、支援は9月までの期間限定です。

    さらに問題なのは、「赤字だ。原発を再稼働すれば電気代を安くできる」と原発推進のチャンスとしていることです。リスクの大きい原発は安全対策や事故処理にかかる膨大な費用を含め、最もコスト高です。岸田政権が「原発の新規建設は考えていない」(22年参院選自民党)との公約から一転して「原発新増設、再稼働」へと変化しています。世界最悪レベルの福島原発事故を起こしながら、このような対策でいいのでしょうか。なぜ、再生可能エネルギーへ方針を変えないのでしょうか。新婦人では班で話し合って、電力会社や自治体に要請書を送っています。「国は値上げを認可するな」「各電力会社は値上げの撤回を」「くにと自治体は生活支援緊急策を」「原発・火力依存からの脱却を」と声を上げましょう。

(2023.3.4 新日本婦人の会弘前支部   平山母志子)

原発・核燃問題の動き(2023年2月)

 今月、岸田文雄政権は「GX(グリーントラスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定しました。この中で、脱炭素社会を実現するための政策として、原発の60年超の運転期間を可能にすることや、新型原発の開発に取り組むことなどが盛り込まれました。さらに月末には、同政権はこうした政策を実施するための原子力基本法・電気事業法・原子炉等規制法・再処理法・再生可能エネルギー特別措置法の改正案を「束ね法案」として閣議決定しました。これらの法案は今期国会でまとめて審議され、成立する見込です。原発の運転期間を「原則40年・最長60年」とするルールは福島第一原発事故の反省を踏まえて定められたものです。これを骨抜きにしようとする昨秋来の動きがいよいよ最終局面に入りました(「原発政策の大転換、方針を閣議決定 新規建設、60年超運転も」朝日新聞2023/2/10、「原発の60年超す運転を認める法案、政府が閣議決定 野党からは異論」朝日新聞2023/2/28)。

 これに関連して、原子力規制委員会は原発の60年超の運転期間を可能にする審査制度を正式決定しました。しかし、石渡明委員は「安全側への改変でない」としてこの決定し反対し、杉山智之委員と伴信彦委員も決定には賛成したものの、外部から議論を急かされ、十分な議論ができなかったと述べています。原子力規制委員会は福島第一原発事故の反省を踏まえ、経済産業省から独立した規制機関として新たに設置されたものです。この委員会の議論が現政権の思惑に左右されたことは、今回の原発の運転期間をめぐる問題の深刻さと難しさを表しているように思われます(「「安全側への改変ではない」原発規制の新ルール案に規制委員が異論」朝日新聞2023/2/9、「賛成の委員からも「違和感」規制委が異例の多数決で原発新ルール」朝日新聞2023/2/14)。

 相変わらず、青森県は別世界です。今月も大間町の野崎尚文町長、風間浦村の冨岡宏村長、佐井村の太田直樹村長は、大間原発の工事再開を求めて経済産業省に陳情に行ったとのことです。また、むつ市の宮本宗一郎市長、六ヶ所村の戸田衛村長、東通村の畑中稔朗村長、大間町の野崎町長は、核燃料物質等取扱税の配分を優遇することなどを求めて青森県庁に陳情に行ったとのことです。みなさん、原発・核燃マネーのことで頭がいっぱいという感じですね(「大間原発の早期工事再開を要望 3ケ町村協、経産省に」デーリー東北2023/2/8、「「核燃税の交付配分見直しを」 青森の原子力施設立地4自治体が県に要請」河北新報2023/2/11)。

(2023.2.28 事務局)

原発・核燃問題の動き(2023年1月)

 昨年秋から、原発の運転期間を「原則40年・最長60年」とするルールを撤廃するための準備が経済産業省を中心に進められてきましたが、岸田文雄首相は今月23日から始まった通常国会でこのための法案を提出することとしたようです。岸田首相は「グリーントランスフォーメーションへの貢献」であることを強調しようとしているようですが、本当に原発回帰が気候変動問題の解決に繋がるのでしょうか。原発は高コストの発電方法であるというだけでなく、一度事故を起こすと大勢の人々の生活を破壊するとともに、広範な環境破壊を引き起こします。このことを私たちは福島第一原発事故から学んだのではなかったでしょうか(「原発の60年超の運転延長、政府が通常国会に法案提出へ」日本経済新聞2023/1/13)。

 その福島第一原発事故の刑事責任を問われ、東京電力の勝俣恒久元会長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長が業務上過失致死罪で強制起訴された裁判の控訴審で、東京高裁は3人を無罪とする判決を出しました。巨大津波の可能性を示した2002年の国の「長期評価」や2008年の東電子会社の津波予測は当時としては信頼性が低く、対応する責任はなかったとのことです。しかし、どんなに言い訳をしても、3人が情報の取捨選択を誤ったために、福島第一原発事故の発生を回避できなかったという事実は変わりません。指定弁護士は判決を不服として最高裁に即時抗告しました。今後の動きに注目です(「東電トップらに二審も無罪判決 原発事故で強制起訴、刑事責任認めず」朝日新聞2023/1/18、「東電旧経営陣の無罪判決、指定弁護士が上告 原発事故で強制起訴」朝日新聞2023/1/24)。

 昨年末、福井県・滋賀県・京都府の住民グループが福井県の美浜原発3号機の運転差し止めの仮処分を申請した件について、大阪地裁は申請を却下する決定を出しましたが、今月、住民側はこの判決を不服として大阪高裁に控訴しました。これに続いて、福井県の別の住民グループも美浜原発3号機の運転差し止めを求めて福井地裁に仮処分を申請しました。美浜原発は運転期間40年を超える老朽原発です。住民側の不安と行動は当然でしょう。こちらの動きにも注目です(「美浜原発3号機運転停止求め 市民グループが高裁に即時抗告」NHK NEWS WEB 2023/1/4、「関電美浜原発3号機の運転差し止め 住民が仮処分申し立て 福井地裁」朝日新聞2023/1/13)。

(2023.1.30 事務局)

原発・核燃問題の動き(2022年12月)

 つい2ヶ月前に、経済産業省が原発の運転期間を「原則40年、最長60年」とするルールを撤廃する案が検討しているというニュースが入ってきたところですが、今月、経済産業省の審議会「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」が新しいエネルギー安定供給の対策案を了承したとのことです。この対策案では「原則40年、最長60年」のルールは維持されるものの、福島第一原発事故後の運転停止期間が運転期間から除外されることによって、60年超の運転が可能になるということです。あまりにも悲惨な福島第一原発事故の教訓を踏まえて策定したルールをこんなに急いでこんな形で骨抜きにしても良いのでしょうか。将来、事故やトラブルがあったとき、誰がどのように責任を取るのでしょうか(「原発回帰「結論ありき」「新規建設・60年超運転」審議会が了承」朝日新聞2022/12/17)。

 原発再稼働をめぐる動きでは、福井県・滋賀県・京都府の住民が福井県の美浜原発3号機の運転差し止めの仮処分を申請した件について、大阪地裁は住民の申請を却下する決定を出しました。美浜原発3号機は1976年に操業を開始し、運転期間40年を超える老朽原発で、今年8月にも原因不明の漏水事故を起こしていたところですが、大阪地裁はそうしたリスクを認めませんでした。全国の原発がトルブルを繰り返している中で、電力会社はひたすら原発の再稼働を進め、国はそれを後押ししています。本当に、何かあったときに誰がどのように責任を取るのでしょうか。どうせ「当時の水準の科学の水準では想定できなかった」という言い訳に終始するのではないでしょうか(「美浜原発の運転差し止め却下 稼働中の老朽原発 大阪地裁仮処分」朝日新聞2022/12/20)。

 青森県六ヶ所村の再処理工場については、今年9月に日本原燃は青森県に完成時期を延期することを報告していましたが(当会でもこの件について三村申吾知事に申し入れをしていました)、今月、ようやく正式な発表がありました。1993年に着工、1997年が完成予定だった再処理工場は、今回で26回目の延期となり、完成時期は2024年上期とのことです。建設費は当初予定7600億円から増額を繰り返し、現在では3兆円を超えます。総事業費は14兆円を超えます。仮に2年後に完成したとしても、高速増殖炉が完成しなり限り、有効に活用される見込みはほとんどありません。それでも青森県や六ヶ所村はこの事業から多額の収入が得られるため、止めるとは言えないようです(「再処理工場の完工、24年度上期に 原燃、ようやく目標示す」河北新報2022/12/27)。

(2022.12.29 事務局)

第37回市民講座感想

 第37回市民講座は中野渡旬氏によるエネルギー及び環境問題の講演でした。いくつか印象に残った事柄があります。年々、世界的に省エネルギーが進められる中、日本だけは頭打ちになり、1990年頃にはエネルギー消費の増加すら示すグラフが示されました。それはちょうど日本に新自由主義が蔓延っていく時期と一致するそうです。また、省エネルギーのためには木材の利用が鍵を握るということが示されました。例えば、アルミサッシは断熱効果がないことから世界中で減少しているのに、日本はまだその割合が高い。木製の窓枠は断熱効果にとどまらず、実は火災にも強いということです。一方、日本で林業に携わる人口はこの40年で3分の1以下に激減しており、一定の割合を保つ政策が取られているドイツとの比較が印象的でした。数々のデータに裏付けられた講演は説得力があり、未来社会への一筋の光のように思えました。

(2022.12.28. 宮永崇史)

原発・核燃問題の動き(2022年11月)

 今月、東北電力は経済産業省に対して電気料金の3割強の値上げ申請を行いました。ウクライナ危機後に深刻化した世界的なエネルギー価格高騰が電力会社の収益構造の悪化を招いているためです。現在、国内では東北電力を含めて6社が値上げ申請の作業を進めているとのことです。注意するべきことは、この申請は女川原発2号機の再稼働を前提としていることで、再稼働できない場合はさらなる値上げが必要になるとされていることです。自分たちの生活を守りたいなら原発の再稼働を認めろと言うのでしょうか。しかし、長期的には原発も高コストの発電方法であることに変わりはありません。再生可能エネルギーの普及こそが私たちの生活を守る道ではないでしょうか(「電気料金、値上げドミノも 原発再稼働の加速が焦点」産経新聞2022/11/24)。

 他方、福島第一原発事故を関わって、会計検査院は被災者への賠償金の支払いのために東京電力に貸し付けている資金の回収に最長で2064年度までかかるという試算を公表しました。賠償金の支払いのために、国は現在までに13.5兆円もの国債を発行して資金を調達し、原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通して東京電力に貸付を行っています。この資金の回収にあと40年以上かかるということです。原発はなくなっても原発事故の費用の支払いを続くのです。日本は世界有数の地震国です。安易に原発を再稼働させたり新設したりすると、将来の世代にさらなる負担を押しつけることになるかもしれません(「福島原発事故賠償 東電への資金回収は最長64年度まで 会計検査院試算」毎日新聞2022/11/8)。

 また、福島第一原発事故の避難者訴訟の控訴審判決もありました。福島県相馬市原町地区の住民140人が東京電力に損害賠償の支払いを求めた集団訴訟の控訴審判決で、仙台高裁は東京電力の責任を認め、2億7929万円の賠償金の支払いを命じました。東京電力が津波対策を怠ったことの責任はもはや自明です。そこで仙台高裁は和解案を提示したのですが、東京電力は拒否したために今回の判決に至りました。事業者にはしっかりと潔く自らの事業の責任をとってもらいたいものです。原発の再稼働の議論が喧しい今日この頃ですが、国や事業者にはそれだけの覚悟や準備があるのでしょうか(「賠償を増額、悪質性も認定 原発避難訴訟 高裁は和解勧告も東電拒否」朝日新聞2022/11/25)。

(2022.11.28 事務局)

原発・核燃問題の動き(2022年10月)

    今月、経済産業省が原発の運転期間を、原則40年、最長60年とするルールを撤廃する案の検討に入ったというニュースがありました。このルールは福島第一原発事故後に事故の反省を踏まえて定められたもので、原発の安全性を鑑みて、操業開始から40年で廃炉、例外的に1度だけ20年延長できるが、最長でも60年で廃炉にするというものです。昨今の原発推進の機運に乗ってこのルールを撤廃しようというわけですが、福島原発事故の反省はどこに行ったのでしょうか。原則40年に科学的根拠はないという主張も見られますが、運転期間が長くなるほど事故リスクは確実に上昇します。40年を超えて原発を安全に運転できるとしても、発電コストが急増することは避けられません。それでも原発の甘い汁を棄てきれないという人々がいらっしゃるようです(「原発、60年の上限撤廃へ 経産省検討、電力を安定供給」日本経済新聞2022/10/14)。

 このように原則40年ルールを撤廃する動きが見られる中でも、全国の原発は大小のトラブルを繰り返しています。定期点検中の福井県の高浜原発4号機では、原子炉内の圧力を調整する弁にトラブルが見つかり、予定どおりの再起動ができなくなったとのことです。また、停止中の新潟県の柏崎刈羽原発7号機では、タービン建屋の配管に穴が見つかり、原因を調査しているとのことです。原則40年ルールを撤廃するのはこのようなトラブルがなくなってからにして頂きたいと思います(「高浜原発4号機 原子炉起動取りやめ」NHK NEWS WB 2022/10/22、「柏崎刈羽原発7号機タービン建屋の配管に穴 東電が原因調査」NHK NEWS WEB 2022/10/28)。

 青森県に関わっては、東通村村長の畑中稔朗氏は東通原発の早期の再稼働を求めて仙台市の東北電力を訪れて要望書を提出したとのことです。「村の存亡に関わる」とのことですが、全国の原発のトラブルなどには関心ないのでしょうか。また、六ヶ所村の再処理工場では、今年7月の冷却装置停止のトラブルに関わる再発防止策が原子力規制委員会から「妥当」と評価されたとのことです。再処理工場も本当にあきれるくらいトラブルが多いですね(「畑中東通村長が東北電力に東通原発の早期再稼働要望」NHK NEWS WEB 2022/10/17、「再処理工場で廃液建屋冷却喪失 再発防止策、規制委「妥当」と評価」2022/10/20)。

(2022.10.31 事務局)

核燃反対運動と「熟議民主主義」

  第36回市民講座では、西館崇さんの講演で、カナダの原子力事情とそこで実践されている「熟議民主主義」というものを学んだ。原子力政策やその効果を分析するに当たっての、市民の評価基準となる民主主義のあり方というテーマであるが、そこには私達の運動に対する課題も示されていた。

 私はこれまで、原発・核燃問題は、①必要性→②経済性→③安全性の順で検討すべきと主張してきたが、それぞれを議論する上で、①決めるプロセスの透明化(情報公開)、②参加(当事者意識)、③責任(国や政治の責任だけではなくて市民としての責任)、が大事であることを指摘してきた。これらは、「市民」が未確立である日本においての実践的課題であるが、「熟議民主主義」とはこういった事項に関わるものであり、民主主義そのもののバージョンアップにつながることが期待されている。

 民主主義という制度も歴史の産物であるが、日本ではまだまだ十分その力を発揮しているとは思えない。実際に見られるのは「多数の少数支配」という側面で、「少数意見の尊重」を通して全ての人間の尊厳を実現するという段階には至っていない。まあ「少数による多数支配」よりは進んでいるとは思うが、「全ての人間の尊厳」を目的にしようとしなければ、衆愚政治やポピュリズムといった「お任せ民主主義」がはびこってしまう。日本の原子力政策は、こうした「民主主義」によって実現しているのであろう。

 民主主義は一つの思想である。それは「Power To The People(ジョン・レノン)だと考えればわかりやすい。Peopleを「民衆」ととらえるか「人民」ととらえるかによってその内容は変わってくると思うが、人々の力によって社会をつくるという思想であることは確かだ。だから、立派な指導者が出てくれば問題は解決するといった考えは時代遅れなのだ。「偉大な指導者の国葬」などというものには違和感を感じるのは当然である。しかし私達は、民主主義を手続きや方法という技術として学んできたことが多かったのではないか。思想としての民主主義とは、運動を示していることを理解しなければならない。

 人々が社会をつくるために何かをやろうとしたときに必要とされるのが民主主義であって、対話や討論(これ自体は教育の世界においては大事な概念になるが)が目的ではない。自分たちの問題を解決しようとしたときに、民主主義は必要とされるのだ。それは、意見の違いは認めたとしても、決まった以上はみんなで実践するということである。(少数意見者には「保留」の権利があるのは当然)そうしないと、もしも失敗したときに、決めた方針が間違っていたのか、それとも少数者が分裂したからダメだったのかという判断がつかなくなってしまう。失敗を教訓として前進する(間違った方針は再びやらない)という、歴史的進歩という道を歩んで来た人類の本性とは違ったものになってしまうのだ。

 核燃反対運動に関していえば、反対する理由はたくさんあるので、そこに線を引いて違った考えを排除するということはしてこなかった。一致点での共同行動を追求してきたし、今は賛成の立場をとっている人たちに対しても、調査活動などを通じて、共通する基盤があることを追求してきた。それらは、仲間を増やし人々の力を結集するという運動目標のために取り組まれたものである。対話や交流が目的ではなくて、何のために対話するのかが問題なのだ。相手との対話は自分を成長させる力になっている。運動のなかで成長させてきた自分たちの力を実感できるいい実践である。運動の中での「熟議」は、相手の説得よりもむしろ自分を励ますためにこそ求められているのかも知れない。

(2022.10.07  運営委員 大坪正一)

原発・核燃問題の動き(2022年9月)

今年は福島第一原発事故から12年目になりますが、帰還困難区域の復興が少しずつ進んでいます。まず6月に葛尾村と大熊町、8月末には双葉町、今月初めには浪江町の特定復興再生拠点区域で、居住を前提として帰還困難区域の避難指示が解除されました。これらの町では12年ぶりにようやく住人が居住することができるようになったのです。しかし、避難指示が解除されたとはいえ、復興に向けての課題は山積しており、住民の帰還は3割程度しか進んでいないとのことです。ウクライナ危機を受けて原発回帰の動きが盛んに見られる昨今ですが、足下の問題がまだまだ解決していないということを忘れてはならないでしょう(「双葉の復興拠点、避難指示解除 福島の全自治体で居住可能に」河北新報2022/8/30、「福島・浪江の復興拠点で準備宿泊開始 来年3月避難解除、12年ぶり居住可能に」河北新報2022/9/2、「避難指示解除区域の住民帰還頭打ち 福島第1原発事故被災地、居住率3割にとどまる」河北新報2022/9/14)。

福島第一原発後、2012年9月に当時の経済産業省原子力安全・保安院と内閣府原子力安全委員会が廃止され、新たに原子力規制委員会が発足してから、今月でちょうど10年になります。この間、原子力規制委員会は従来の大甘な規制当局とは打って変わって、原発の再稼働に対して厳しく対応してきました(まったく疑問がなかったわけではありませんが)。しかし、昨今、原子力規制委員会に対する圧力も日に日に強まっています。そうした中で、田中俊一氏、更田豊志氏に続く第3代委員長に、大阪大学の山中伸介氏が就任しました。福島第一原発の教訓を胸に、悲惨な事故を繰り返さないために是非頑張って頂きたいと思います(「規制委10年、問われる独立性 原発推進、強まる包囲網」朝日新聞2022/9/19、「原子力規制委の新委員長、山中氏が就任会見「独立性、透明性を堅持」」朝日新聞2022/9/26)。

青森県では、日本原燃が六ヶ所村の再処理工場の完成時期を延期することを県に報告しました。再処理工場は1997年に完成するはずだったのですが、これまで25回の延期を繰り返し、今年上期完成とされてきました。これがさらに延期されたのです。26回目の延期です。完成時期は未定とのことです。延期期間はとうとう四半世紀を超えました。これまでに投じられた費用は3兆円を超えます。その数日後、足並みを揃えるように、電源開発は大間原発の安全対策工事の開始時期と運転開始時期をそれぞれ2年延期し、運転開始は2030年度頃と発表しました。こちらは8回目の延期です。真面目にやる気があるのでしょうか(「再処理工場 完成時期延期 日本原燃 県へ報告」NHK NEWS WEB 2022/9/7、「大間原発の安全対策工事開始2年延期 審査長期化で 運転は30年度ごろ」河北新報2022/9/10)。

(2022.9.30 事務局)

再処理工場26回目の延期

 

 日本原燃は今月7日、六ケ所村で建設中の使用済み核燃料再処理工場について、9月中としていた完成目標を延期すると発表しました。延期は26回目になります。稼働に必要な原子力規制委員会の審査が終わる見込みはなく、次の完成目標は明示されませんでした。

  再処理工場は、使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクル政策の中核施設です。当初は1997年に完成する予定でしたが、試運転中にトラブルが相次ぐなどして延期を繰り返してきました。原燃は見通しの甘さから、完工目標の延期幅を示せず、年内に公表すると約束せざるを得ませんでした。自ら事業の先行きは分からないと宣言したに等しいものです。当初7600億円の見込みだった建設費は約4倍の3兆円を超えましたた。稼働から廃止までを含む総事業費は14兆4300億円の見込みですが、今回の延期でさらに増えることでしょう。工場稼働はとてもコストに見合うとは思えません。技術的な難しさやコストだけでなく、国策としての核燃サイクルは事実上、破綻していると言わざるを得ません。再処理で抽出したプルトニウムは元々、ウランとともに混合酸化物(MOX)燃料に精製し、高速増殖炉で使用するはずでした。核燃サイクルの中核施設として、プルトニウム利用の本命でしたが、開発は頓挫しています。

稼働に必要な審査がまったく進まない上、再処理した後に作るM O X燃料を使える大間原発も運転開始が2030年に延期されました。核燃料サイクルに固執せず、再生エネルギーの方向に進むよう根本から見直すことが必要です。

(2022.9.30 津軽農民組合 三浦)

原発・核燃問題の動き(2022年8月)

 今月、政府のグリーントランスフォーメーション実行会議(GX実行会議)は、原子力規制委員会の安全審査に合格した原発7基の再稼働を目指すとともに、次世代原子炉の開発・建設に取り組むという方針を確認しました。年始以来、脱炭素の取り組みやウクライナ危機などを受けて、各方面で原発回帰を目指す動きが活発化していました。これまで政府は「安全性が確認された原発」の再稼働を進めるとしつつも、原発の新増設は想定しないとしてきましたが、今回、こうした流れに乗って原発回帰に舵を切ったわけです。しかし、安全審査に合格したと言っても、大半の原発は課題やトラブルを抱えており、避難計画すら策定できていないという状況です。次世代原子炉の開発・建設と言っても、実現するのは何十年も先の話ですから、現今のエネルギー危機の解決策につながるわけがありません(「政府 原発7基 再稼働目指す方針確認 次世代の原子炉開発検討へ」NHK NEWS WEB 2022/8/24、「電力「危機」あおり政治決断、一気に原発回帰 福島事故の教訓どこへ」朝日新聞222/8/26)。

 こうした動きがある一方で、全国の原発では相変わらずのトラブル続きです。福井県の美浜原発3号機は今月初めに再稼働の予定していましたが、原因不明の漏水事故のために再稼働を延期しました。新潟県の柏崎刈羽原発は原子力規制委員会の立ち会いの要請を無視して、不適切な溶接が発覚した配管の修理後の試験を行いました。原発の再稼働とか、次世代原発の開発とか、そんなことを言っている場合ではないのではないでしょうか(「美浜原発3号機 水漏れの原因特定できず運転再開遅れる見通し」NHK NEWS WEB 2022/8/3、「東電、規制庁に連絡せず試験 柏崎原発で立ち会い要請も」中日新聞2022/8/23)。

 福島第一原発でも廃炉作業はトラブル続きです。今月も配管撤去作業の現行計画を断念したり、燃料デブリ取り出し作業を再延期したりしています。事故から11年が過ぎてもこのような有様です。他方、地元の漁業者を始めとする多くの反対・懸念の声を押し切って、汚染水の海洋放出のための設備の建設工事が始まりました。福島第一原発の動きにも注意が必要です(「東京電力の見通し甘く、トラブル続きで」東京新聞2022/8/1、「原発処理水放出設備、きょう4日着工 東電、完成は来夏にずれ込みも」河北新報2022/8/3、「福島第一原発「燃料デブリ」取り出し再延期 最長1年半程度」NHK NEWS WEB 2022/8/25)。

(2022.8.29 事務局)

冷却水停止事故について

 さる7月2日、青森県六ヶ所村にある使用済み核燃料の再処理工場で高レベルの放射性廃液を冷却する設備がおよそ8時間停止するトラブルがありました。事業者の日本原燃は外部への影響はないとしていますが、この事故はこれまでのミスとはレベルが違います。高レベル放射性廃液を安全に保管するには冷却しなければならないということが最も大切であるにも関わらず、その過程で人為的ミスが起こったのです。人為ミスは、それが起こらないように何重ものチェック機構を準備しておく必要がありますが、あまりにも簡単に起こったようです。もうこれ以上高レベル廃液を青森県に持ち込んでほしくはありませんが、少なくとも現在存在するものの管理を事業者はしっかりと行って欲しいと願います。

 また、7月29日に日本原燃は26回目となる再処理工場の稼働を延期すると発表しました。電源停止の人為的トラブルと併せて、すでにこの会社には核燃料を再処理することは不可能なのではないかと思わざるを得ません。もう核燃再処理を行わないよう国民的議論を広めたいものです。

(2022.8.18 宮永崇史)

汚染水海洋放出について

 2022年7月22日、原子力規制委員会が福島第一原発の汚染水の海洋放出の実施計画を正式に認可しました。それなりにきちんと科学的に検討して判断しているようにも見えます。しかし、漁業者を始め、地元の多くの人々はこの計画に反対しています。他方、別の多くの人々は「科学的に問題ない」のであれば賛成してるとのことです。

 かつて東電は福島第一原発は科学的に安全である、絶対に事故は起こさないと言っていました。国も東電の主張にお墨付きを与えてきました。しかし、事故は起こりました。その後、国と東電は当時の科学的知見の下では予想できなかった、想定外である、自分たちに責任はないと主張し続けてきました。

 将来、もしも海洋放出された汚染水によって何らかの被害が生じたとしても(必ずしもその可能性が高いとは言いませんが)、国も東電も当時の科学的知見の下では予想できなかった、想定外である、自分たちに責任はないと主張するでしょう。

 国や大企業の「科学的に問題ない」というセリフはものすごく軽いと思います。福島第一原発事故後の東電の対応は不信感しか生んでいません。だから、漁業者の方々を始め、地元の多くの人たちが反対するのではないでしょうか。

 問題のポイントは、汚染水が科学的に安全かどうかにあるのではなく、国や東電に本気で責任をもってこの事業に取り組む気があるかどうかにあるように思えます。しかし、今の国や東電を見ると、彼らが人々の信頼を取り戻す日は遠いように思われます。

(2022.8.5. 匿名会員)

原発・核燃問題の動き(2022年7月)

 原発復興とも言える動きがますます活発化しています。EUの欧州議会は天然ガスとともに、原子力を地球温暖化対策に資する「持続可能な投資先」(グリーンな投資先)と位置づける政策を承認しました。今年の1月に欧州委員会が示した方針が確定したこということです。今後、EUは原発の建設をグリーンな投資先として優遇することになります。ウクライナ危機を発端とするエネルギー供給の不安定化の影響と相まって、ヨーロッパではますます原発推進の動きが活発化するでしょう(「原発や天然ガス発電は「グリーン」民間投資促す案、欧州議会が承認」朝日新聞2022/7/6)。

 国内でも、経済産業大臣の萩生田光一氏は今冬に向けて原発9基の再稼働を目指すと明言しました。これを後押しするように、原子力産業協会は原発の新増設・リプレースを国のエネルギー基本計画に明記するよう求める提言を発表しました。しかし、地震大国日本で再び深刻な事故が起こる可能性は決してゼロではありません。本当にどうしても原発の再稼働・新増設が必要なのでしょうか(「萩生田経済産業相 冬に備え 最大9基の原発稼働進める考え示す」NHK NEWS WEB 2022/7/15、「「原発の新増設・建て替え国計画に明記を」原子力産業協会が提言」朝日新聞2022/7/22)。

 他方、福島第一原発事故に関わって、東京電力の株主が旧経営陣の責任を追及していた株主代表訴訟で、東京地裁は勝俣恒久元会長、清水正孝元社長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長の4人に約13兆円の支払いを命じる判決を言い渡しました。旧経営陣が津波対策を先送りしていたために事故が起こったとの主張が認められたものです。双方、控訴したとのことですが、今後の動きに注目です(「東電旧経営陣に13兆円賠償命令 過去最高額 原発事故で東京地裁」毎日新聞2022/7/13、「原発訴訟、旧経営陣と株主が控訴 東電に賠償13兆円、判決に不服」共同通信2022/7/27)。

 また、福島第一原発の汚染水の処理に関わって、原子力規制委員会は東京電力の海洋放出計画を正式に認可しました。今後、関連工事に着手し、来春頃の放出開始を目指すとのことです。敷地内に保管される100万トン以上の汚染水の処理にようやく目処がついたということになるのですが、福島県の漁業者を中心に多くの人々が強く反対したり懸念を表明したりしています。こうした声を押しのけるように事業を進めて、本当に大丈夫なのでしょうか(「原発処理水海洋放出を正式認可 規制委「安全性問題なし」」河北新報2022/7/23)。

(2022.7.27 事務局)

原発・核燃問題の動き(2022年6月)

今月、福島第一原発事故の避難者訴訟において、最高裁第二小法廷(菅野博之裁判長)は東京電力の責任と損害賠償の支払いは認めたものの、国の責任を認めない判決を言い渡しました。この判決は、福島県、群馬県、千葉県、愛媛県の避難者が国と東京電力に対して損害賠償の支払いや生活環境の回復を求めた4つの裁判の上告審です。かつて東京電力は「原発は絶対に事故を起こさない」と主張し、国はその東京電力の原発建設を後押ししてきました。このことについて国の責任が存在しないなら、私たちは一体何を信じれば良いのでしょうか。責任を取れないなら、責任を取れない判断や政策を行ったことが大きな間違いだったと言うべきではないでしょうか(「原発事故の国の責任、最高裁が認めない判決 賠償義務は東電のみ」朝日新聞2022/6/17)。

 こうした中で、被災地の福島県では、葛尾村の一部と大熊町の一部で避難指示が解除されました。いずれも帰還困難区域に指定され、11年に渡って人が住むことが認められなかった地域で、こうした地域の避難指示の解除は葛尾村が初めてで、大熊町が二番目です。とはいえ、対象となったのは特定復興再生拠点に指定されるごく一部の区域で、帰還予定の住民もごくわずかです。今後、20年台中にすべての地域の避難指示を解除する予定になっていますが、課題は山積、復興への道のりはまだまだ遠いです(「福島・葛尾で復興拠点の避難解除 居住前提は帰還困難区域初」河北新報2022/6/14、「福島・大熊の一部、避難指示解除 原発立地の復興拠点で初」河北新報2022/6/30)。

 青森県では、六ヶ所村の村長選挙の投開票があり、現職の戸田衛候補が反核燃派の山田清彦候補の20倍近い票を獲得して再選されました。六ヶ所村は同じ東北地方で原発事故が起こっても我関せずという体を貫いています。しかし、いかに核燃マネーの存在が大きいと言っても、国内の原発がゼロになるのは時間の問題です。六ヶ所村の将来は大丈夫でしょうか。他方、反核燃派の候補は現職候補にあまりにも大きな票差を付けられました。反対運動のあり方にも大きな課題にあると言わざるを得ません(「戸田氏、核燃反対の山田氏に大差/六ケ所村長選」東奥日報2022/6/12)。

(2022.6.30 事務局)

 

 

第15回総会 佐原雄二氏の基調講演を受けて

 2022626日 第15回総会において、弘前大学農学生命科学部名誉教授佐原雄二氏による「大規模風力発電とメガソーラー諸問題」と題する基調講演が行われました。

3つの流れに沿ってお話されました。

一つ目は大規模風力発電についてです。

佐原氏は青森県環境影響評価審査会会長を務めておられます。評価委員になって12年になられるそうで、最初の頃は廃棄物処理場の問題がほとんどだったそうですが、今では風力発電所の案件が爆発的に増え審査が大変だと話されていました。環境影響評価は事業者が配慮書、準備書、評価書、報告書を作成し自然環境の破壊を未然に防ぐなどの配慮をすることになっており、審査会はそれらが適切かどうか20人の専門家が検証しその結果を知事に報告し、知事が事業者に意見する仕組みとなっていることや、住民が説明を聞いて意見を述べたりすることもできること、最終的には国が認可の可否を判断し県には何の権限も与えられていないことなど話されました。問題なのは国は、この風力発電の環境影響評価(アセス)をしなければならない規模を大幅に緩和しようとしているとの報告もありました。風力発電は、青森、秋田、北海道に多く、本県が10年連続1位で青森県内の風車密集地帯は下北半島基部と十三湖周辺で住民の抵抗のないところから始めているとのこと。風車の高さは150㍍から200㍍程度で洋上だと300㍍以上に。巨大風車の問題として騒音(超低周波も含む)と振動、電波障害、風車の影やバードストライクとバットストライク、景観、森林伐採などが紹介されました。渡り鳥は夜飛ぶので風車にぶつかったり、絶滅危惧種のオジロワシは、昼なのに獲物を探すため下を見て飛ぶので当たってしまうのだそうです。しかし、これら被害の実態は地面に落ちた死骸がすぐにタヌキやキツネなどによって持ち去られてしまうのでつかめないそうです。西海岸沿いの風力発電について防衛省と気象庁がつがる市の米軍のエックスバンドレーダーに支障がないか調査に入っていることにも触れられました。

 全国で風発反対運動が起きていて、県内では十和田の「惣辺奥瀬風発」と北八甲田の「みちのく風発」の2か所が紹介されました。この2か所について私も議会で取り上げてきました。他自民党の議員も含め複数の方が自然景観破壊などの問題意識をもって取り上げています。

 二つ目は、メガソーラー(太陽光発電)についてです。

こちらの第一の問題は、国の法律でも県の条例でも環境影響評価(アセス)の義務付けがないという問題です。しかし、県内でただ一件アセスが行われた青森市の新城山田のメガソーラーが紹介されました。ここについては50㌶を超える土地改変は県条例によってアセスが必要という縛りの上で行われました。私は、広大な森林伐採のこの現場を調査し議会で取り上げました。ため池がへどろ沼のようになっていました。事業者が地域の町会連合会(会長は保守派県議)に多額の寄付をしていたことが判明しています。札束で反対を封じ込めようとするのが見え見えです。このメガソーラーについては青森市議会でも追及されています。

 三つ目は、私たちの生きている時代(大絶滅と人新世)について。これが本題だとおっしゃっていました。

「人新世」について改めてネットで調べてみましたら「ノーベル化学賞受賞者のドイツ人化学者パウル・クルッツェンによって考案された『人類の時代』という意味の新しい時代区分で、人類が地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼすようになった時代であり、現在である完新世の次の地質時代を表している」とありました。

 佐原氏は、私たちは人新生に生きている。人新生の特徴は、生物多様性の急激な減少。今は地球史上6番目の大絶滅の時代と強調されました。この半世紀に人口は倍増し、農地を確保するために森林が切り開かれた。陸地の75%が改変され、野生動物の個体数は3分の一に減った。100万種以上が絶滅の危機にあるとのこと。最後に私たちの取るべき道は何なのかという難題に対し、

〇原発は廃止すべきだ。しかし、原発に代わるエネルギーを躍起になって開発するのが正道なのか。

〇誰にでもできる発電がある。「使わない」ことである。

〇将来の世代に、幾分でもましな地球を譲り渡すには、それしかないだろう。

と締めくくられました。

 

私は、今回の佐原氏の講演を聞いて改めて電気を少しでも使わない暮らし省エネを実践するために努力しようと心に決めました。そして、原発をやめ再生可能エネルギーで電気需要に応えていくためには、何が必要なのか。電気を使う産業構造そのものも変革する必要があると思います。当会の今後の課題として皆で勉強していくことを提案したいと思います。諸外国の事例も大いに参考にして行きたいものです。先生がおっしゃられるように地球は100年で人が住めない場所になるというのを黙って見ていられませんので。

2022.6.28 安藤晴美)

 

 

汚染水海洋放出に反対する!

東京電力は福島第1原発事故で発生した放射能汚染水を処理した後に残る高濃度のトリチウムを含む汚染水(アルプス処理水と呼ばれている)を薄めて1キロ沖合の海に放出する計画を立てています。この計画を巡り、原子力規制委員会は東京電力の申請を認める審査書案を了承しました。この審査書案は、放出手順、設備の安全性、人や環境への放射線の影響などを評価して、東京電力の計画に問題はないと結論づけました。審査書案は6月17日まで一般からの意見募集を行い、その結果を踏まえて正式に決定される見通しです。

この間の経緯を見てみましょう。福島第1原発事故後、溶融した燃料デブリの冷却や、地下水の流入のため、大量の汚染水が発生しました。当時は毎日400トン以上と言われていました。その汚染水はタンクに貯蔵され現在120万トンにも達したといわれています。汚染水タンクからの漏洩や海洋流出などの事故が相次ぎました。対応をめぐって、政府と東電はこれまでデータ隠しや後手の対応などが指摘されています。

この汚染水問題に復興を妨げられてきた漁業者たちは、2015年、対策に協力するため、原子炉建屋周辺の地下水を汲み上げて浄化処理した後に海に放出する「サブドレイン計画」を「苦渋の選択」として受け入れてきました。その際、アルプス処理水についてはタンクで厳重に保管し、漁業者・国民の理解を得られない海洋放出は絶対に行わないよう要望しました。これに対して政府と東電は、関係者の理解なしには、いかかる処分も行わないと約束しました。

しかし、政府は昨年4月、これを覆して海洋放出の方針を決定しました。来年4月ころ放出開始を目指しています。汚染水についてはタンクでの保存継続やモルタル化など代替案の検討を求める声もありますが、政府は安くて簡単な方法である海洋放出を進めようとしています。アルプス処理水は安全基準を満たすなどとしたチラシを学校現場に送りつけたり、全国の新聞に広告を出したりしています。

私たちは、政府や東電の主張を鵜呑みにしてよいのでしょうか、あるいは政府や東電の主張を仕方がないと認めてよいのでしょうか。立ち止まって考え、声を出して行く必要があると思います。

(2022.6.3 弘前大学職員組合 永瀬範明)

 

 

原発・核燃問題の動き(2022年5月)

 ロシア軍のウクライナ侵攻が続いています。原油や天然ガスの価格高騰は日本にも電力不足などの影響をもたらしています。こうした状況の中で、経済産業省は2050年の脱炭素社会の実現にむけた「クリーンエネルギー戦略」の中間整理をとりまとめ、再生可能エネルギーとともに原子力を「最大限活用」すると明記しました。CO2排出量の少ない天然ガスの供給に大きな問題が生じていることは事実ですが、果たして原子力が「クリーン」なエネルギーといえるのでしょうか。日本のエネルギー政策にとっても難しい情勢が続きます(「原発を「最大限活用」政権肝いりのクリーンエネ戦略、中間整理」朝日新聞2022/5/13)。

 福島第一原発事故に関わって、原子力規制委員会は敷地内に貯まる大量の汚染水の海洋放出の計画を了承しました。汚染水は処理されたとはいえ、依然としてトリチウム他の放射性物質を含んでいます。本当に大丈夫なのでしょうか。地元では漁業者の中心に、風評被害の懸念などによる根強い反対論があります。地元の関係者が納得できる解決が望まれるのではないでしょうか(「福島第一原発の処理水 原子力規制委 東電の放出計画を了承」NHK NEWS WEB 2022/5/18)。

 やはり、福島第一原発事故と関わって、事故当時子どもだった6人が事故の影響で甲状腺がんに罹患したとして東京電力に賠償を求める裁判が始まりました。福島第一原発事故と福島県内で増加し続ける甲状腺がん患者の関係について、福島県の専門家会議は否定的ですが、多くの専門家や関係者はその関係を否定できないとしています。裁判の行方は非常に重要です(「“福島第一原発事故影響で甲状腺がんに”集団訴訟 裁判始まる」NHK NEWS WEB 2022/5/26)。

 他方、北海道内外の住民が北海道電力に泊原発の運転差し止めを求めた裁判の判決で、札幌地裁は安全対策が十分でない、住民の人格権が侵害される恐れがあるとして、泊原発の運転差し止めを命じました。福島第一原発事故の教訓を踏まえて、原発に高度な安全性が求められるとする当然の判決です。北海道電力は控訴するようですが、今後の動きに注目したいです(「泊原発の運転に差し止め命令、地裁「防潮堤がない」審査にも影響か」朝日新聞2022/5/31)。

(2022.5.31 事務局)

 

原発・核燃問題の動き(2022年4月)

 ロシア軍のウクライナ侵攻を受けて、エネルギー問題をめぐる議論と混乱が続いています。イギリスはエネルギー安全保障の確保のため、再生可能エネルギーの利用拡大に加えて、最大8基の原発を新設する計画を発表しましたが、ヨーロッパ各国は核燃料についてもロシアに依存しているという指摘があります。日本でも岸田文雄首相が新しい規制基準に適合する原発は可能なかぎり活用したいと表明しましたが、ウランを輸入に頼っているだけでなく、有事の際に格好の攻撃目標となることを考えると、安易に原発再稼働を唱えるのは間違っているのではないでしょうか(「イギリス 最大8基の原発新設 価格高騰踏まえ新エネルギー計画」NHK NEWS WEB 2022/4/8、「欧州、核燃料もロシア依存 原発再評価に課題」時事通信2022/4/24、「岸田首相 新しい規制基準に適合する原発は可能なかぎり活用を」NHK NEWS WEB 2022/4/27)。

 先月、福島第一原発事故の避難者訴訟で初めての上告審判決が出て、これまで避難者に支払われた賠償額が少なすぎるという判断が確定しましたが、これを受けて、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会は従来の「中間指針」の見直しを含めた議論を始めることになりました。福島第一原発事故の発生から11年が過ぎており、この間、多くの避難者が諸々の苦しみの中で裁判を続けてきました。あまりにも遅い対応だと言うべきではないでしょうか。なお、今月はさらに1件、さいたま地裁で避難者訴訟の判決があり、東京電力に63名の避難者に約6千5百万円を支払うことが命じられました(「【原発賠償】中間指針見直し議論へ 東電責任巡る最高裁判断受け 福島県協議会の緊急要望に文科政務官が示唆」福島民報2022/4/22、「原発事故 東電に賠償命令 国への訴えは退ける さいたま地裁」NHK NEWS WEB 2022/4/20)。

 この他にも福島第一原発事故関係のさまざまな報道がありました。福島地裁郡山支部は福島第一原発事故の風評被害を認め、郡山市の畜産農家に約3億4千万円を支払うことを命じました。中間貯蔵施設への除染廃棄物の搬入作業が開始から7年を経てほぼ完了しました。富岡町の夜の森地区で、12年ぶりに花見ができるようになりました。昨年、福島県内の漁業の試験操業が終了しましたが、水揚げは事故前の2割に留まることのことです。復興への道のりはまだまだ続きます(「東電に3億4千万円支払い命令 肉牛の価格が低下、風評被害認める」朝日新聞2022/4/5、「中間貯蔵施設への除染廃棄物搬入ほぼ完了 開始から7年」河北新報2022/4/9、「富岡・夜の森の桜、12年ぶり歩いて花見 2・2キロ全ての観桜可能に」河北新報2022/4/10、「水揚げは原発事故前の2割 福島漁業の課題と光明」朝日新聞2022/4/24)。

(2022.4.28 事務局)

 

原発・核燃問題の動き(2022年3月)

  ロシア軍のウクライナ侵攻の影響が広がっています。ロシア軍は1986年に大事故を起こしたチェルノブイリ原発を始め、ウクライナ国内の原発施設を攻撃したり、占拠したりしています。原子力規制委員会の更田豊志委員長は、日本の原発がミサイル攻撃を受ければ放射性物質がまき散らされると述べています。環境経済研究所の上岡直美氏は、東海村の再処理施設が攻撃を受ければ最悪で死者40万人に達すると試算しています。六ヶ所村の再処理工場が攻撃を受ければもっと大きな被害が生じるでしょう(「日本の原発は戦争「想定していない」ミサイル攻撃受ければ「放射性物質まき散らされる」」朝日新聞2022/3/9、「もし東海再処理施設が攻撃されたら…廃液20%放出で死者40万人と試算 ウクライナで原発リスクが現実に」東京新聞2022/3/18)。

 このように原発のリスクに関する懸念が大きくなっている中で、自由民主党の議員を中心に、エネルギー価格の高騰を乗り切るために、安全審査が終わっていない原発を再稼働するよう働きかける動きが活発化しています。更田委員長は「安全に妥協を許されない」という立場を堅持してます。しかし、ロシア軍の侵略行為に圧力をかけるためにも、ロシア産の原油や天然ガスに依存する体質から脱却することは急務です。世界も日本も重い課題を突きつけられています(「「テロ対策施設が未完成でも…」与野党の一部議員、原発再稼働を要請」朝日新聞2022/3/15、「原発再稼働 規制委“ウクライナ理由で安全に妥協は許されず”」朝日新聞2022/3/16、「エネルギー政策の「歴史的な転換点」 世界の脱ロシア依存、日本は」朝日新聞2022/3/26)。

 こうした中で、福島第一原発事故の発生から11年が過ぎました。今月も、福島第一原発の廃炉の作業が困難を極めていること、インフラや交通網の復旧が進む一方で、漁業を始めとする地域の再生が進まないこと、帰宅困難区域の避難指示の解除が進むものの、住民帰還や地域復興に向けての課題が山積していることなど、原発事故からの復興の現状と課題が報じられています。被災地域の一日も早い復興を願うとともに、原発事故の深刻さを銘記するべきでしょう(「福島第1原発廃炉、なお道のり険しく」、「津波襲来の福島・浜通り、漁業再生道半ば」、「帰還困難区域、復興拠点の避難解除迫る」(地方紙協働アンケートから)河北新報2022/3/10)。

 また、福島第一原発事故の避難者訴訟で初めての上告審判決が出ました。まず、群馬県、千葉県、福島県の避難者が東京電力と国を提訴した3つの裁判について、最高裁第二小法廷は上告を棄却、続いて、東京都と福島県の避難者が東京電力を提訴した3つの裁判について、最高裁第三小法廷は上告を棄却し、すべて避難者側の勝訴が確定しました。ただし、国の責任の有無は保留とし、今年の夏に最高裁で統一判断が示されるとのことです。ようやく一つの区切りが近づいてきました(「原発避難で東電の賠償確定、計14億円 国の責任は今夏判断 最高裁」朝日新聞2022/3/4、「東電の賠償、3つの避難者訴訟で新たに確定 原告側「ようやく…」」朝日新聞2022/3/8)。

(2022.3.28 事務局)

さようなら原発・核燃「3.11」弘前集会 基調講演の感想

「原発事故をめぐる集団訴訟、いわゆる「生業訴訟」などを含む3つの集団訴訟について、最高裁は東京電力の上告を退けました。これで、東電の賠償の支払いが確定しました。」前日に、こんなニュースを受けた後の弘前集会。「原発事故」をキーワードに様々な想いを感じました。

 今回は「福島第一原発事故から学ぶこと~初期の甲状腺被ばくと国連科学委員会報告~」と題し、東京新聞の記者、榊原崇仁氏が講演してくれました。榊原氏は、2011年の中日新聞北陸本社(金沢市)勤務時に北陸電力志賀原発・避難計画や敷地内断層についての取材や、2013年東京本社(東京新聞)で東京電力福島第一原発事故・甲状腺被ばくや甲状腺がんについて熱心に取材されている方です。講演は、「甲状腺被ばくとは」から始まり、過去の事例・仕組み・被ばく線量の導き方・発がん性との関係を取材した内容に基づいたものでした。今ではよく聞く、放射線被ばくといえば「100m Sv」という値についても、「そもそも科学的に正しいのか」「福島の原発事故で対象がどの位いたのか」「正しい人数を測定したのか」など疑問を持つに十分な取材内容です。「原発事故前に想定された住民対応」と「実際に行った住民対応」について「サボるわ、矮小化するわ…」と嘆かざるおえない現実を知りました。

私は、3.11を旅行先の千葉県で体験しています。揺れるTDL(東京ディズニーランド)で吹きっさらしの中、まだ5歳の娘と数時間過ごした事は今でも忘れません。青森に帰る手段が無く、ホテルのテレビで「福島原発水素爆発での建屋崩壊」をリアルタイムに観ました。「え?核爆発?」と知識の無い当時の私は思いました。「放射能は大丈夫?大丈夫な訳がない!」とシロウトの私ですら感じました。榊原氏は講演で、「不毛な議論はもうやめにしませんか?」と健康被害の実態・健康被害を前提に議論をし、「つまりは救済の議論を始めるべき」と提案していました。私も全く同意見です、「サボらず、矮小化せず」に被害にあった方の救済と二度と事故を起こさない対策を政府にしてほしいと感じました。

 (健生病院労働組合 石垣和史

原発・核燃問題の動き(2022年2月)

 ロシア軍のウクライナ侵攻に世界が驚いています。世界各国がロシアに対して経済制裁を発動しようとしています。天然ガスの輸入停止もその一つです。しかし、ロシアは世界第1位の天然ガスの輸出国で、天然ガスはCO2排出量が少なく、再生可能エネルギーが十分に普及するまでの中継ぎとして不可欠のエネルギーです。すでにドイツではエネルギー政策の展開を検討し始めており、天然ガスの輸入停止の対策として原発や石炭火力の運転延長についても検討しているとのことです。日本もロシアから天然ガスを輸入していますが、原発に頼ることなくこの危機を乗り越ることができるでしょうか(「ドイツがエネルギー政策を大転換 ロシアのウクライナ侵攻で」REUTERS 2022/2/28)。

 日本では、福島第一原発事故から間もなく11年になるところで、さまざまなニュースが見られます。地元紙では、福島第一原発の廃炉作業が困難を極めていることを報じています。デブリの取り出し作業は計画どおり進まず、作業工程の遅れが相次いでいます。汚染水の処理については、海洋投棄という政府の方針に対して懸念の声が寄せられています。ところが、そうした中で、政府は「原発処理水は安全」とするチラシを全国の小中高の学校に配布したとのことです。地元への配慮のかけらもありません(「「原発処理水は安全」国が学校にチラシ 被災3県、配布見合わせも」河北新報2022/2/20、「東京電力福島第一原発事故の廃炉作業「福島県の今について最も関心があること」」福島民報2022/2/28)。

 青森県では、六ヶ所村の再処理工場の完成を目指して、日本原燃が担当者を東京に集約し、体制を強化しているとのことです。核燃料サイクルの中核を担う再処理工場は、1993年着工、1997年完成予定だったにも関わらず、25回の延期を経て今年9月の完成予定となっています。度重なる不手際により審査が停滞していましたが、その審査もいよいよ大詰めという見方もあれば、いまだに停滞したままで、26回目の延期は避けられないという見方もあるようです。これらの動きにも目が離せません(「原燃が「背水の陣」 再処理工場の審査打開できる? 耐震担当を東京に集約」東京新聞2022/2/28)。

(2022.2.28 事務局)

原発・核燃問題の動き(2022年1月)

  新年早々から、EUの欧州委員会が原子力を天然ガスを一定の条件の下で「持続可能な投資先」(グリーンな投資先)に認定する方針を発表したというニュースが飛び込んできました。CO2の削減のためには原子力も望ましい投資先になるそうです。こうした動きはフランスを始めとする原発依存度の高い国々が主導しており、ドイツを始めとする脱原発を目指す国々は反発しているとのことなので、まだまだ予断は許されません。確かに、原子力は多くの火力発電ほどCO2を排出しませんが、経済的なコスト、事故のリスク、最終処分の問題など、課題山積です。日本の元首相たちが反対しているというニュースもありました。どうなるでしょうか(「原子力・天然ガスは「持続可能」欧州委が方針」日本経済新聞2022/1/2、「原子力などのグリーン投資認定案、EU専門家委が修正要請」ロイター2022/1/25、「日本の元首相5人がEUに書簡 原発「グリーン」に認定反対」2022/1/28)。

 日本でも原発回帰を匂わせるさまざまな動きが見られます。今月、政府は「クリーンエネルギー戦略」の策定に向けて作業を始めたとのことです。今夏の参院選選挙を意識して「原発の新増設」を盛り込むことを見送るという見方もあれば、脱炭素に絡めて原発回帰の動きが見え隠れしているという見方もあるようです。また、日本とアメリカの間で次世代高速炉の開発計画に関する覚書が調印されたとのことです。高速度増殖炉もんじゅの開発に失敗した事業者たちが失地回復を狙っているようです(「「クリーンエネ戦略」に原発新増設盛り込まず 政府、参院選影響懸念」毎日新聞2022/1/18、「原発活用へ透ける思惑 首相が「クリーンエネルギー戦略」策定を指示」朝日新聞2022/1/18、「次世代高速炉計画で日米が覚書締結…もんじゅ関連企業に参加求める方針」読売新聞2022/1/27)。

 他方、福島第一原発事故の発生から今年で11年になりますが、今月もいろいろな事案があったようです。ロボットによる格納容器内部の調査がトラブルで延期されたこと、建屋周囲の「凍土壁」が損傷し、塩化カルシウム水溶液が流出したこと、がれきなどの廃棄物が当初の1.7倍に増加したこと、富岡町の特定復興再生拠点区域の一部で立入禁止規制が緩和されたこと、甲状腺がんに罹患した当時17-27歳の男女が損害賠償の支払いを求めて東京電力を提訴したことなどです。原発事故をめぐる困難や人々の苦しみが今でも続いていることが分かります(「福島第一原発1号機の調査延期 機器に電源入ったあとトラブルか」NHK NEWS WEB 2022/1/14、「福島第一原発 マイナス30度の液体約4トン漏えい パイプ損傷か」NHK NEWS WEB、 2022/1/23、「福島原発、廃炉阻む廃棄物 本格作業控え6年で1.7倍」日本経済新聞2022/1/26、「わが家への帰宅いつでも 原発事故10年余、富岡の立ち入り規制緩和」河北新報2022/1/27、「甲状腺がん「原発事故との関係判断を」6人が東電提訴」朝日新聞2022/1/27)。

(2022.1.31 事務局)

原発・核燃問題の動き(2021年12月)

  新潟県の柏崎刈羽原発は今年1月に安全対策工事の完了を発表した直後に、重要施設のテロ対策に不備があることが発覚したことを皮切りに、この1年間でさまざまな不祥事が明らかになりました。今月もテロ対策の不備が15年前から続いていたこと、2007年の中越地震の後、1800本超の杭の点検が行われていなかったこと、1000箇所以上の配管の溶接に不備があることなどが明らかになりました。まさに不祥事の総合商社です。2021年は柏崎刈羽原発の年でした。こんなことで、原発の再稼働を進めていって大丈夫なのでしょうか。東京電力に原発を管理する能力があるのでしょうか(「対テロ不備 不適切措置 15年からか 柏崎刈羽原発 規制委、気付かず「合格」」新潟日報2021/11/30、「柏崎刈羽原発 未点検くい1800本超 重要施設に影響の恐れも」新潟日報2021/12/9、「柏崎刈羽原発7号機でも配管の溶接不備 1千カ所以上で工事やり直し」朝日新聞2021/12/24)。

 その一方で、今月は愛媛県の伊方原発3号機と鹿児島県の川内原発1号機が再稼働しました。伊方原発は日本最大の活断層である中央構造線の真上に建設されているにも関わらず、多くのトラブルのために2年近くに渡って運転を停止していました。川内原発も阿蘇山や姶良カルデラなどの火山灰のリスクがあるにもかかわらず、安全対策は極めて不十分であると言われています。原発は発電時にCO2を排出しないとはいえ、一度事故が起これば大量の放射性物質を排出します。私たちはいつまでも原発に頼り続けなければならないのでしょうか(「トラブル続きの四国電・伊方原発3号機が再稼働 1年11カ月ぶり」毎日新聞2021/2/2、「川内原子力発電所1号機 臨界状態に」NHK NEWS WEB 2021/12/19)。

 そんな問題はどこに吹く風かと言わんばかりに、青森県では、風間浦村が原子力施設の誘致を検討しているとのことです。原子力施設の受入による電源三法交付金や、固定資産税・核燃料物質等取扱税などの税金がお目当てのようです。国民の約8割が原発推進に反対している状況の中、核燃マネーに頼らない地域作りを進めていかないと、青森県に未来はありません。そんなときに時代に逆行するようなことを考える青森県の政治家たちは本当に暢気な人たちですね(「原子力施設の誘致検討 青森・風間浦村 交付金や税収を防災財源に」河北新報2021/12/9、「原子力施設誘致、具体性乏しく 巨額税収への思惑透ける 青森・風間浦村」河北新報2021/12/9)。

(2021.12.27 事務局)

第34回市民講座「私のふるさと六ヶ所村」の感想

 第34回市民講座は2021年11月27日に、菊川慶子さんをゲストとして行われました。

 今回、六ヶ所村で核燃料サイクル建設・稼働中止を求めて運動を続けてこられた菊川さんのお話しを聴くことができ、とても貴重な時間だったと感じています。私たちが反対運動をするのとはまた違って、現地で反対運動をすることは、賛成派からの反発も多いのではないかと思います。その中で、全国の人たちに知ってもらいたいと運動されている姿に頭が下がります。

原発も再処理工場もとても危険であることは皆がわかっていると思います。原発があることで生活が成り立っているというのもわかります。しかし、人の命や豊かな自然のことを本気で考えたら、選択はかわるのではないでしょうか。

改めて、深く考えさせられる市民講座となりました。

株式会社ファルマ 工藤 由希子

原発・核燃問題の動き(2021年11月)

 先月末から今月にかけて、福島第一原発をめぐるいくつかのトラブルが報道されました。まず、福島第一原発事故の敷地内への地下水の流入を防ぎ、汚染水の増加を抑えるための「凍土壁」について、一部で温度が上昇し、地下水の流入が疑われているとのことです。また、福島第一原発の5号機(事故を起こしたのは1〜4号機)で空調機が故障し、調べてみると、代替フロンが13キロも漏洩しており、過去、法定点検を一度も行っていなかったことが分かったとのことです。さらに、福島第一原発で作業員2名が不完全な防護で設備の修理を行っていたところ、内部被曝したとこのことです。福島第一原発は廃炉作業や汚染水処理で混迷を極めています。このようなトラブルを起こしていると、いつまで経っても福島県民の信頼を回復することはできないでしょう。やはり東京電力の資質に問題があるということではないでしょうか(「福島第一「凍土壁」の温度上昇、一時は10度に…地下配管からの水漏れ原因か」読売新聞2021/10/29、「福島第一原発5号機の空調機 法定点検を一度も実施せず」NHK NEWS WEB 2021/11/11、「福島第一で内部被曝か 東電社員2人、全面マスク・防護服着用せず」朝日新聞2021/11/22)。

 青森県では、経済産業省の萩生田光一大臣が六ヶ所村の再処理工場を視察するとともに、青森県の三村申吾知事や六ヶ所村の戸田衛村長と面会したとのことです。萩生田大臣は核燃料サイクルを推進する方針を表明しましたが、三村知事や戸田村長は「国民全体の理解と信頼」が十分でないと訴えているとのことです。しかし、再処理工場はこれまで25回の延期を繰り返し、3兆円の建設費が投入されてきました。今のところ、来年上期の操業が予定されていますが、どうなるのでしょうか。どうすれば「国民全体の理解と信頼」が得られるのでしょうか。ちなみに、すでに廃炉が決まった茨城県東海村の再処理工場もトラブル続きで廃炉作業が進んでいないとことです。東海再処理工場の廃炉には70年と1兆円がかかると言われています。六ヶ所村の再処理工場は大丈夫でしょうか。将来のことには目をつぶり、このまま操業に突き進んでいくのでしょうか(「国は核燃サイクル継続強調 青森県知事は「理解と信頼十分と言えず」」朝日新聞2021/11/8、「行き詰まった核燃料サイクル 施設の廃止作業は遅れ、工場完成は見通せず」東京新聞2021/11/7)。

(2021.11.30 事務局)

署名にご協力を!

私たちは、青森県を原子力発電からでる高レベル放射性廃棄物の最終処分地としない条例の制定を求める請願署名をすすめています。

青森県六ヶ所村では、原子力発電所で使われた使用済み核燃料を再処理してできる高レベル放射性廃棄物をガラスで固めて一時貯蔵施設に保管しています。

このガラス固化体は、総重量500kg。ドラム缶より細長く、少し小さい容器に高レベル放射廃棄物がガラスで固められています。200度の高熱を発し、資源エネルギー庁によると製造時、ガラス固化体表面の放射線は毎時1500シーベルト、20秒で100%死亡するとされる、とてつもなく危険なものです。放射能が下がるまで1000年以上の保管が必要とされています。 

1995年からガラス固化体の一時保管を受け入れた青森県は、「青森県を高レベル放射性廃棄物の最終処分地にはしない」とする文書を国と交わしていますが、すでに25年が経過した今も最終処分地が決まっていません。 

今月21日、北海道寿都(すっつ)町で町長選挙がおこなわれ、最終処分地候補として手を挙げている現職の町長が再選されました。しかし、北海道知事は反対していて、どこも最終処分地を受け入れるところはありません。 

ガラス固化体は冷却するまで「30年から50年」の保管期限が必要です。50年の終了時点で電力会社が運び出す約束をしています。しかし、これから最終処分地の立地までは、文献調査から建設にまで30年が見込まれ、2045年に訪れる「50年」の期限が守られる保障はありません。 

六か所村には現在、2000本以上(2176本)のガラス固化体が保管されています。核燃再処理工場が本格稼働すればさらに毎年、最大約1000本のガラス固化体が発生します。

原子力発電をつづけるかぎり、核燃再処理工場が生み出す高レベル放射性廃棄物はふえつづけます。このままでは一時貯蔵のはずが、なし崩し的に青森県が最終処分場にされかねません。

わたしたちは、子どもたちに負の遺産を残さない「青森県を高レベル放射性廃棄物の最終処分地としない」条例制定を求めています。

青森県を最終処分地にしない条例、これは他の県に最終処分地を押し付けるものではありません。

原子力発電を続ける限り、再処理で高レベル放射線廃棄物核は増え続け、保管する場所はどこにもありません。このことひとつ取っても原子力発電、核燃サイクルはやめなければなりません。

青森県を最終処分地としない条例制定を求める請願署名にご協力お願いいたします。

(2021.10.29  農民組合 金曜日行動の訴えより)

原発・核燃問題の動き(2021年10月)

  今月、第6次エネルギー基本計画が正式に閣議決定しました。前回の計画で、再生可能エネルギーを「主力電源化」することが明記され、2030年度までに電源構成における比率を「22〜24%」に引き上げるという目標が掲げられましたが、今回の計画では、再生可能エネルギーの普及に「最優先」に取り組むこととが明記され、その比率を「36〜38%」に引き上げるという目標が掲げられました。ちょうど1年前、2020年10月に当時の菅義偉首相は2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを表明しました。こうした流れを受けて、現在の内閣もようやく再生可能エネルギーの普及に本腰を入れ始めたようです(「再エネ普及「最優先」初めて明記 エネルギー基本計画を閣議決定」毎日新聞2021/10/22)。

 しかし、今回の計画でも、原発は「重要なベースロード電源」であり「必要な規模を持続的に活用」するとされました。地球温暖化対策を口実に原発を維持しようという野心はまだまだ消えないようです。これに関連して、経済産業省の萩生田光一大臣は「原子力は脱炭素に欠かせない」と延べています。電気事業連合会の池辺和弘会長は今回の計画に「原発の新増設を記載してほしかった」と女々しくも述べています。世論の反発を恐れて、そこまでは明記できなかったようですが、今後、こうした動きがますます活発化することが予想されます(「原発、脱炭素に「欠かせず」 再稼働進めると経産相」日本経済新聞2021/10/5、「電事連会長、原発の新増設「記載してほしかった」」産経新聞2021/10/22)。

 ところで、北海道の寿都町と神恵内村で最終処分場をめぐって動きがありました。寿都町と神恵内村では昨年11月より高レベル放射性廃棄物の最終処分場建設に関わる文献調査が始まりましたが、道内の地質学者が「地質的当町から不適地」とする声明を発表しました。他方、寿都町では町長選挙が行われ、文献調査を推進する現町長の片岡春雄氏とこれに反対する越前谷由樹氏の一騎打ちとなりましたが、現町長が僅差で勝利しました。町民が文献調査を支持したということでしょうか。これらの動きにも目が離せません(「「寿都と神恵内は不適地」 核のごみ処分場選定で地質学者が声明」朝日新聞2021/10/13、「寿都町長選挙 現職の片岡春雄氏が6選 文献調査継続の見通し」NHK NEWS WEB 2021/10/26)。

(2021.10.27 事務局)

原発・核燃問題の動き(2021年9月)

   今月、福島第一原発の汚染水処理施設で、放射性物質を取り除く排気フィルターの大半が破損していたことが明らかになりました。また、大量の廃炉廃棄物が国の認可の内容に違反する形で保管されていることも明らかになしました。折しも、先月、東京電力は汚染水の海洋放出の具体的計画を発表したところです。東京電力にとって、福島県民の信頼を取り戻すことが急務であるときに、どうしてこのような不祥事を繰り返すのでしょうか(「福島第一の汚染水処理設備で排気フィルター破損 東電が公表せず交換」朝日新聞2021/9/13、「福島第一、認可外の廃棄物保管が急増…規制庁「マネジメントできていない」」読売新聞2021/9/13)。

 新潟県の柏崎刈羽原発では、既報のとおり、重要施設の管理や安全対策工事に関わるさまざま不祥事が明らかになり、原子力規制委員会が是正措置命令を発令した後も、次から次へと新たな不祥事が明らかになっていましたが、今月、またまた約100台の火災報知器に不備があることが明らかになりました。新潟県を始め、原発推進・容認の立場の人たちですら、相当な衝撃を受けているようです。東京電力はこんなに無能な会社だったのですね(「東電柏崎刈羽原発の火災感知器、約100台に不備 ずさんな工事再び」朝日新聞2021/9/20)。

 また、福島第一原発の避難者訴訟の控訴審判決が一件出ました。愛媛県に避難した住民が国と東京電力に損害賠償を求めた裁判で、2019年3月の松山地裁判決に引き続き、高松高裁は両者の責任を認め、賠償金の支払いを命じました。控訴審で国の責任が争われたのは4件目で、そのうち国の責任が認められたのは3件目です。しかし、賠償金は1人平均で100万円ちょっとです。避難者の苦痛や被害に見合った金額と言えるのでしょうか(「原発避難者愛媛訴訟、高松高裁も国の責任認める 国と東電に賠償命令」毎日新聞2021/9/29)。

 他方、経済産業省が6年ぶりに試算した電源別発電コスト(2030年時点)の最終版が確定しました。原子力11.7円〜、石炭13.6〜22.4円、天然ガス10.7〜14.3円、太陽光(事業用)8.2〜11.8円、風力(陸上)9.8〜17.2円等々です。経産省もとうとう再生可能エネルギーのコスト面の優位を認めざるを得なくなったわけですが、原子力もそこそこ安いと言いたげです。しかし、原子力の発電コストは適切な前提の下で計算されていないとの指摘もあります(「原発の電力、揺らぐ安さ 再稼働遅れ・建設費増が影」日本経済新聞2021/9/21)。

(2021.9.29 事務局)

原発・核燃問題の動き(2021年8月)

 福島第一原発の汚染水については、今年4月に海洋放出の方針が決定しましたが、今月、政府はその風評被害対策をまとめました。例えば、国と東京電力が住民の損害賠償に適切に対応する体制を整備するとのことですが、今まで避難者訴訟などで賠償を拒み続けてきた東京電力にそんなことができるのでしょうか。また、国が冷凍可能な水産物を買い取ったり販路を拡大したりするとのことですが、果たして漁業者の被害を間違いなく補填できるのでしょうか。福島県の漁業者の苦しみがこれ以上続かないことを祈るばかりです(「福島第一の処理水放出、国が水産物買い取りへ 風評対策」朝日新聞2021/8/24)。

 その翌日、タイミングを合わせるように、東京電力は福島第一原発の汚染水の放出計画の概要を公表しました。海底にトンネルを掘り、沖合1kmの地点から海水で十分に薄めたトリチウム水を少しずつ放出するとのことです。諸事情に配慮した計画のようにも見えますが、本当にトリチウム水は安全なのでしょうか。トリチウム以外の放射性物質は確実に取り除けるのでしょうか。とりわけ、東京電力の柏崎刈羽原発などでは人為的ミスが頻発していますが、こうしたミスは汚染水放出に際しては絶対に生じないのでしょうか(「東電、処理水の沖合放出計画を公表 今年度中に工事開始」朝日新聞2021/8/25)。

 他方、東北電力が2030年度のCO2排出量を2013年度より半減させる目標を発表したというニュースもありました。地球温暖化対策は待ったなしの状況ですから、大変好ましいことです。しかし、そのために相も変わらず「再エネと原子力の最大限活用」を柱に据えるとのことです。現在、再生可能エネルギーの普及が急速に進み、発電コストも急速に低下しています。そんな中で、莫大な費用を掛けて宮城県の女川原発2号機の安全対策工事を進め、再稼働を目指すとのことです。こんなことで東北電力は経営的に大丈夫でしょうか(「東北電力、CO2半減の目標年示す 再稼働が必要と強調」朝日新聞2021/8/1)。

 それにしても新型コロナウィルスの感染が国や自治体の無策のためにますます拡大しています。全国の原発でも然りです。福島第一原発で12人、福井県の高浜原発で11人、佐賀県の玄海原発で39人などです。必ずしも原発関係者が悪いということではありません。しかし、感染症が蔓延しているときに、大型の台風と大規模な地震・津波に襲われたら、原発は大丈夫だろうかとついつい考えてしまいます(「福島第一原発で新型コロナ感染相次ぐ」東京新聞2021/8/2、「高浜原発で11人が新型コロナ感染」東京新聞2021/8/8、「<唐津「まん延防止」>玄海原発関連、計39人感染」佐賀新聞2021/8/27)。

(2021.8.30 事務局)

トリチウムの海洋放出について

  今回は6月開催の県議会での質問とそれに対する県の回答を紹介します。質問は以下のようにな ります。「六ヶ所再処理工場から海洋放出されるトリチウムの管理目標値は年間18 000兆ベクレルであり、福島第一原発汚染水から放出されるトリチウム管理目標値2 2兆ベクレルの818倍となっているが、これで安全と言えるのか」それに対する危機 管理局長の回答は以下の通りです。「原子力発電所から放出される放射性物質は1年間 につき1ミリシーベルトと定められており、六ヶ所再処理工場でもこの1ミリシーベル ト以下の0.022シーベルトであると新規制基準適合検査で確認されている」これに 対し私は、トリチウムの放出量の多いフランスのラアーグ再処理施設では周辺の小児白 血病の発症率が約3倍、カナダのピッカリング原発ではトリチウムの放出により周辺の 新生児ダウン症発症率が約3倍に、日本でトリチウム放出量の最も多い玄海原発では白 血病死亡率が全国平均の約5倍と高くなっているなど、とても安全とは言えない現状を 踏まえ、特にがん発症率の高い青森県では再処理の本格稼働はやめるべきだと主張しま した。 

(2021.8.18  副代表 安藤晴美)

原発・核燃問題の動き(2021年7月)

   今月、経済産業省が6年ぶりに新たな電源別発電コスト(2030年時点)の試算を公表しました。前回2015年の試算では、原発10.1円、陸上風力13.9〜21.9円、太陽光(事業用)12.7〜15.5円等々、原発が再生可能エネルギーよりも優位であることが強調されていましたが、今回の試算では、原発11円台後半、陸上風力9円台後半〜17円台後半、太陽光(事業用)8円台後半〜11円台後半等々、原発が必ずしも優位でないことが認められています。かなり以前から知られていたことではありますが、原発推進勢力を代表する役所もとうとう再生可能エネルギーが優位であることを認めたのです(「発電コスト、最安は原発から太陽光に 経産省が試算発表」朝日新聞2021/7/12)。

 また、経済産業省は第6次エネルギー基本計画の素案を公表しました。前回2018年の第5次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーが「主力電源」と位置づけられ、2030年度の電源構成における比率の目標が22〜24%とされていましたが、今回の素案では同じ目標が36〜38%へと大幅に引き上げられました。前回の計画は再生可能エネルギーの可能性を過小評価していると言われてきましたが、今回、原発を「必要な規模を持続的に活用」するという曖昧な扱いが変わらないものの、ようやく脱炭素社会の実現に向けた本気の取り組みが見えてきたという印象を受けます(「再エネ比率36〜38%へ 30年度、基本計画素案公表」朝日新聞2021/7/21)。 

 他方、福島第一原発事故の賠償費用が10兆円を超したというニュースもありました。賠償費用については2016年に7.9兆円という数字が公表されていましたが、多くの紛争や訴訟に加えて避難生活の長期化のために賠償費用は増加し続けていました。その結果、とうとう10兆円を超えたということですが、まだまだ増加し続ける見込みです。このことは福島第一原発事故の被害の大きさと複雑さを物語っています。同時にこのことは福島第一原発事故の処理費用全体(21.5兆円/2016年発表)の増額につながるとともに、原発の発電コストをさらに引き上げる要因にもなるでしょう(「原発事故の賠償金10兆円超す 時効消滅にらみ請求急増か」河北新報2021/7/1)。

 青森県の関係では、むつ市に建設中の使用済み核燃料の中間貯蔵施設の操業の暫定目標が本年2021年から2023年に延期されたというニュースがありました。安全審査が長引いたことと、追加的安全対策工事が必要になったことによるそうです。操業延期はなんと8回目です。むつ市は「財政運営計画に多大な影響を及ぼしている」とご立腹のようです。要するに「核燃マネー」が早くほしいというわけです。ここにも自治体のエゴが核燃料サイクルを推進するという構図が看取できます(「中間貯蔵操業「23年度」 RFS、暫定目標2年延期」朝日新聞2021/7/22)。

(2021.7.28 事務局)

第14回総会の感想

  今回初めて総会に出席しました。講演は泉谷眞実先生の「日本の再生可能エネルギー普及政策について」です。講演では、日本のエネルギー問題から始まり、再生可能エネルギーの種類・抱える問題・政策について説明がありました。またドイツやデンマークなどの海外の再生可能エネルギー政策と日本の政策との違いについて紹介がありました。日本の政策は、大企業・外国資本が参入しやすく地元にメリットが少ない点がわかりました。今後の再生可能エネルギー政策は、電源の確保のみならず「地域振興」の視点も必要になることが学べました。講演後の質疑・次年度の方針では、メガソーラーや大型風力発電所建設時の「環境アセスメント」について会場が盛り上がりました。エネルギー問題はとても身近な問題の一つです。今のうちからみんなが関心を持って議論し、次世代に問題の先送らないようにしたいです。

(運営委員 石垣和史)

原発・核燃問題の動き(2021年6月)

 今月、福井県の美浜原発3号機が再稼働しました。1970年に操業を開始し、大阪万博に送電した1号機と1972年操業の2号機は廃炉決定済み、1976年操業の3号機も運転開始40年を超える老朽原発です。40年超の原発の再稼働は例外的にしか認められないとされ、全国初のケースになります。莫大な費用を投じ、安全対策工事を行ったとはいえ、あまりにも旧式の原発の再稼働に問題はないのでしょうか。また、テロ対策施設の建設が間に合わないため、今年10月に定期点検で停止することがすでに決まっているということも、とても情けない話です(「関電美浜原発3号機が再稼働 運転開始40年超は全国初」朝日新聞2021/6/23)。

 年明け以来、新潟県の柏崎刈羽原発は重要施設の管理や安全対策工事に関わるさまざま不祥事が明らかになり、原子力規制委員会が是正措置命令を発令していましたが、今月、新たに72箇所の工事が未完了だったことが明らかになりました。あまりにも杜撰です。ここまで来ると、東京電力には原発を管理・運用する能力がないということを否定することは難しいでしょう。彼等は本気で柏崎刈羽原発を再稼働するつもりなのでしょうか(「東電、柏崎刈羽原発の工事未完了 新たに72カ所発覚」日本経済新聞20021/6/10)。

 福島第一原発事故の避難者訴訟の判決もありました。新潟県に避難した801人が損害賠償89億円の支払いを求めた裁判で、新潟地裁は東京電力に18千万円の支払いを命じましたが、国の責任は認めませんでした。また、勝訴とはいえ、賠償額はごくわずかです。避難者訴訟の地裁判決は22件目(高裁判決は5件)、すべて原告勝訴ですが、国の責任の所在については判断が分かれています。日本国は無責任国家でないという結論を望みたいです(「福島第一原発事故の避難者集団訴訟 国の責任は認めず 新潟地裁」NHK NEWS WEB 2021/6/2)。

 青森県に関連して、六ヶ所村の核燃料サイクル事業の費用がまたまた増額し、再処理事業が144400億円、MOX燃料加工事業が24300億円、計168700億円になったとのことです。これだけ莫大な費用をかけても、すでに大量のプルトニウムを保有する我が国がさらなる再処理の実行を認められるかどうかが不透明、認められたところで再生産される核燃料は通常の核燃料の9000億円分程度ということですから、本当にもう訳が分かりません(「5000億円増で14兆円超える 膨らみ続ける使用済み核燃料の再処理事業費」東京新聞2021/6/26)。

2021.6.30 事務局)

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